未知亜

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9/27/2025, 1:37:21 PM

ㅤ涙には理由があると思ってた。
 悲しい涙。悔し涙。怒りの涙。孤独の涙。そして、うれし涙。

 あなたと夢の中で同じ部屋に泊まっていた。前にも二人でここに来た時の話をあなたはずっとしていて、そんなこともあったねと私は頷いて聴いていた。
「朝ごはん食べに行こうよ」
 とあなたが笑って立ち上がったところで、なぜか私の目からすうっと涙が零れて、それで目が覚めたのだった。


『涙の理由』

9/26/2025, 12:40:54 PM

 掲げるようにして運んだトレイをテーブルに置くと、ふたつ並んだマグカップの片方を、取っ手が目の前に来るように君はくるりと回してくれた。礼を言って引き寄せると、
「いいよいいよ、こないだのお礼なんだから」
 君は向かいにすとんと腰を下ろす。ふわりと舞った髪の毛から甘い香りがして、目の前の黒い液体を僕はひと口流し込んだ。
「で? 話って?」
 黒い瞳がじっとこちらを見た。テーブルの上で、お揃いのマグカップからゆらゆら湯気が立ち昇る。彼女は猫舌なのだった。
「うん、あのね」

 コーヒーが君の適温まで冷める頃、どんな僕らになっているだろうか。

『コーヒーが冷めないうちに』

9/25/2025, 11:30:56 AM

ㅤ鈴の鳴るような凛とした音に私は頭を起こした。慌てて窓外を見れば、最寄り駅まであと二駅だ。
ㅤ視界の端に銀色が揺れている。ドア横に立つ乗客のキーホルダーが、リュックと袖仕切の間で揺れてはぶつかり、チリンチリンと音を立てていたのだ。

ㅤドアが開き、リュックを背負った人が降りていく。冷たさを増した風が、ふわりと車内を浸す。ただとてつもなく、淋しい夢を見ていた。
ㅤ隣でゲームに興じる若者が、肘を私にゴリゴリ押し付けてくる。淋しさの底で泣く私の幻影が、私からぐんぐん遠ざかる。

ㅤ姿勢を正す振りで肘を押しやり、零れた涎をそっと拭った。

『パラレルワールド』

9/24/2025, 1:22:41 PM

 あなたの左の手首から、電子音がピピっと響く。手持ち時間が減ったのか、歴史がひとつ重なった合図か。
 離れようとした頬を両手で挟んでこちらを向かせ、愛しいやわらかさを食みながら私は考える。

 時計の針が重なって。ゆらゆら浮かぶ、昨夜と今夜のあわい。


『時計の針が重なって』

9/23/2025, 2:32:02 PM

 足音だけで、吐いた息の音階だけで、なんとなくわかるよ。今夜の君の調子ってやつがさ。

ㅤ残業ちょっと多いんじゃない?ㅤあの上司の無理難題はその後どうなったのかな?
ㅤなにより僕の気がかりなのは、君の心の揺れ方。独り言の質と食事の中身、欠伸の数——そのへんが整ってれば、ひとまずは安心だからね。
 早く髪を乾かしてこっち来て。今夜はもう一緒に眠ってしまおうよ。
ㅤお気に入りのあのコロンを僕に吹きかけたら、ずっとくっついててあげるから。
ㅤ背中をもぎゅもぎゅ揉んでても、しっぽをじっと握っててもいーよ。君が眠ってしまうまで。

『僕と一緒に』

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