未知亜

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11/14/2025, 4:41:36 AM


 人の優しさが染みた時、美しい景色にほろりとした時、やっぱりあなたを思い出す。
 愛を込めるなんて柄じゃないし、幸せ願うのもなんか違う。だからこの気持ちはもう祈りのようなものかもしれない。

 今日もまた。
 あなたが笑っていますように。助けてくれる誰かが何かが、あなたと共にありますように。どうにかなるさと明るく諦めて、下手くそな鼻歌を歌えていますように。
 ひそかな祈りを重ねたとて、先には何もないけれど。

『祈りの果て』

11/13/2025, 9:54:20 AM


 店に戻った私を見た友紀は静かに口元に手をやり、なにか小さな声でつぶやいた。
 今更多少見た目が変わったところで、意味なんかないと思ってた。だから友紀がヘアカットモデルの話を持ちかけて来た時も、深く考えずに引き受けたのだ。
 毛先を揃えるついでに色をリタッチし、シャンプーとブローをしてもらっただけなのに、鏡の中には別人がいた。

「いや、ごめん、すごい……綺麗で」
「そ、そうだね。プロの腕はすごいね、やっぱ」
 なんと返して良いやらわからず、違う角度で同意を示す私に、友紀が目を逸らし珈琲カップを傾ける。ほとんど中身の残ってないそれを。
 2時間ほど前に出されたお揃いのカップはもうなかった。すっかり氷の溶けた水のグラスを私は所在なくなぞる。

 ねえ。私たち、同じ迷路に迷ってると信じてもいいのかな?
 まっすぐになった自分の髪からシャンプーが強く香る。

『心の迷路』

11/12/2025, 9:57:37 AM


 ドアが閉まり、私は笑顔を引っ込めた。鍵を掛ける自分の手が、古い映画でも観てるみたいに動く。
 テーブルに並んで置かれた青は鳥だとばかり思っていた。よく見ると小ぶりな花が絡み合い、花束みたいに寄り添っていた。まったく、馬鹿みたいに可愛い。
 こんなもの滅多に使わない癖に、張り切って出してきちゃって。ほんと可愛くて馬鹿みたい。

『ティーカップ』

11/11/2025, 9:58:56 AM


 カラオケを出たら辺りは暗くなっていた。
「5時かあ」
 スマホを見て仁美がつぶやく。途端に防災無線の音楽が流れた。夕焼け小焼けだった。
「こんな都会でも、地元と同じ曲流すんだねえ」
 仁美が目を細める。ビルとビルの間でピンクに染まった空。なぜだろう、一緒にいるのに寂しくて。
「あー?」
 仁美がこちらを向いて不意に明るい声を出す。
「カレーの匂いがして期待したのに、うちじゃなかった、みたいな顔してる」
 人を指ささないで、と払い先に立って歩いた。仁美だって寂しいと思う。じゃなきゃこんな時間に私とここに来なかったよね。
「ね、次どこ行く?」
 追いついた仁美を振り返ると、自然な気軽さを装ってその手を取り、私は意識して思い切り口角を上げた。

『寂しくて』

11/10/2025, 9:55:47 AM


 ふたりで過ごす時間に手を振ったあと、チャンネルを切り替えるように、きみはすぐ違う世界を歩いてる。
 どんなに楽しく過ごしても、ぼくの言葉で笑ってくれても。改札の向こうでスマホに目をやる顔はもう、ぼくの知らない笑い方。


『心の境界線』

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