曇天に埋め込まれた枯れ桜は
花霞と呼ぶにふさわしい淡さで
目を離せば二度と見つけられないのではないかと思わせるほどに頼りなさげであったけれど
その時降り注いだ一線の光は
まるで何十年という時間を巻き戻したかのような輝きを桜に与え
一陣の風が吹いても散り離れることのない花弁は
その一枚一枚が発光しているかのようであった
あの光景をほんの数日前のことのように思い出す私の目の前にあるのは
子供が寝転がれるほどに大きな焦げた茶色の切り株と
弾けるようにみずみずしい新芽がぽちょんと
恐れる必要なんてない
悩む必要だってない
お前が持ってる情報を
頭の中に浮遊する知識を
相手に伝わるように
丁寧に言語化してあげるだけでいいんだ
たったそれだけでいいんだ
完璧な答案なんて作らなくていい
一番大事なのは練習だと思うこと
本番はこんな感じなんかなって心の中で呟きながら
問題を眺めな
なんだこれわからんっていうやつがあったら
マスクの下で笑っとけ
おいおいまじかよって呟きながら
とりあえず笑っとけ
笑いは目の前の事象とお前との間に距離をつくってくれるから
あとはやっぱプロが作る問題は伊達じゃないなって
わくわくしながら考えること
ああ自分はプロが本気で作った問題に今立ち向かってるんだって
その夢の舞台に立ってることを存分に楽しみな
もし鉛筆を握る手が震えたとしたら
それはお前の身体と心が夢の舞台に興奮してるってことだから
大丈夫
安心して行ってきな
わたしはあの人の生活に必要ないんだって
でもそれって最高じゃない?
あの人はわたしが側にいない今この瞬間も満たされてるってことなんだから
大好きな人が幸せに過ごしてることが保証されてるんだから
最高の振られ方でしょ
だからさ
泣く必要なんてないんだよ
ね?
時には屋台の鉄板のように熱く夢を語り
またある時はとっくに冷えた焼きそばのように
さめた視線をのぞかせる。
今はどっちかっていうと後者だな。
ビーチパラソルの影から僕らを眺めるその横顔は
あたかも愚民どもを見下す氷の女王、なんてな。
なあ
何を悩んでるんだ。
両面的なキャラってのは大衆民衆の大好物だが
そこにはもれなく真っ黒な過去もついてくるって
相場が決まってんだぜ。
ほらハッピーセットだってもれなく景品がついてくるだろ。あれと一緒。
そんでさらに忘れちゃいけないのが
そいつを引っ張り上げるニューヒーローな。
もし可能なら僕だって今すぐお前の頭ん中に
この腕をつっこんで
その中心にこびりついたがんこな過去をべりべりっとはがして
この日差しのもとにさらしたいぐらいなんだよ。
なあ
笑ってねえでなんか言えよ。
お前の本心はどこにあるんだ。
昔からよく寝る子供だった
母親の悲鳴のような怒鳴り声が聞こえたときも
父親の唸り声のような低い返答が聞こえたときも
妹に死ねと叫んでしまったときも
布団は私の安全基地だった
大嫌いな部活の合宿に参加することになったときも
先輩からあからさまな陰口をたたかれたときも
友達の母親から私がいじめをはたらいていると電話があったときも
何も言わずに私を隠してくれた
就職試験の不安と
研究が思うように進まない焦燥感に
涙が止まらない今だって
淡々と私と一緒にいてくれる
布団は誰にでも平等だ
こんなに汚い私にも、静かに寄り添ってくれる
どうか今夜も一緒にいさせて
一人だと、消えちゃいそうだから