「I love」
I love you
安っぽいシールに書かれた文字。
馬鹿馬鹿しい。
こんなので、私の愛情を示せると思っているの?
「あなたは私のこと、本当に好き?
ごめんなさい。私、あなたの愛情を感じられないの。」
そう言って出て行こうとしたあなた。
あなたのために手間をかけて作ったご飯。
あなたのために綺麗にアイロンをかけた洗濯物。
あなたのために飼い始めた猫。
あなたのために引っ越した部屋。
何を間違った?
私の愛情は伝わらなかった?
安っぽいシールをつけなきゃいけなかった?
「I love you」なんてくさいセリフが必要だった?
私、本当にあなたのことを愛しているのよ。
だから、離れていくなんて許せない。
私の愛が伝わらなかった?
そんなの、もう知らない。
まだ暖かさの残るあなたにそっと触れる。
これからは、あなたは私のお人形。
これからも、愛情を込めてお世話するわ。
本当に、あなたのことを愛しているのよ。
そうね。
最初から、こうしておけばよかった。
「雨音に包まれて」
雨の音が好きだ。
雨が降っている時、窓を開けると、雨音と湿った土の匂いが入り込んでくる。雨で冷えた空気が頬を触れる。
夜寝る時、雨の音が聞こえると安心する。
そっと万年筆を手に取る。
「今日は雨が降っていて嬉しい」と日記帳に書く。
ノートのページを閉じる。
雨音に包まれて、このまま消えてしまえればいいのに。
「美しい」
あなたはきっと完璧、だと思う。"頭がよくて、運動もできて、誰にでも優しく、常に微笑みをたたえる顔は驚くほど美しい"なんて、完璧すぎて、もはやロボットではないか。少しの人間性もなくて、怖しいとさえ思う。思っていたのに。
その日、あなたは朝から少し体調が悪かった。その時は、少し意外だなと思っただけだった。完璧なあなたでも体調不良はあるのかと。でも、しばらくしてから何かがつかえるような、えずくような音が聞こえて、どうやらあなたが吐いてしまったらしい。あなたは涙目で汚物に塗れていて、あたりからは胃液の匂いがしていた。
初めて見たあなたの弱み。人間らしさ。
あの時初めて、本当に、あなたを美しいと思った。
「どうしてこの世界は」
この世界は理不尽なものだ。
優しい人が損をする。
恩を仇で返される。
嫌いな人にも優しい言葉をかけたところで、返されるのは遠慮のかけらもない胸糞悪い言葉。
だから私は「みんなで仲良く」なんて言う教師が大嫌いだ。
いつかの私の担任は、トイレに行くときまで追いかけてこようとする気持ちの悪い男子に「やめて」と言っただけで私を叱った。
「ありがとう」と言わなかっただけで注意された。
私はそいつにありがとうなんて言われたことがないのに。
それどころか、そのとき学級委員をやっていた私に
「学級委員にもなればそうやって人によって態度を変えるところが治ると思ったのに」と言った。
私は投票で学級委員になったというのに。
人によって態度を変えて、エコ贔屓をしているのはお前ではないか。
「どうしてこの世界は」なんて考え始めたらキリがない。
だから今日も「ほどほどに」頑張ることにする。
「君と歩いた道」
家から海へと向かう一本道。
君と何度も歩いた道。
たわいのない話をして、笑い合って、手を繋ぎながら歩いた道。
なんの目的もなく、ただ一緒にいるためだけに歩いた道。
その道を、今日は1人で歩く。
君はあの海の中に消えてしまったから。