静寂に包まれた部屋
部屋はしんとしていつもより広かった
僕と猫以外誰も居ない
夜の静けさが街を包むころ
君の不在を思う
今ごろ元気でいるだろうか
僕は自由だ
独りになりたいと思っていたじゃないか
これで良かったはずだろう
君ひとりいない
君ひとり居ないだけじゃないか
僕の好きな
君の苦手な
騒がしい音楽が鳴り響いている
静寂に包まれた部屋には
君が居ないというだけだ
別れ際に
僕が言い残したことがあるとするなら
愛してるという言葉だった
一度も口にしたことはなかった
愛などという簡単なひと言では表せなかった
その朝の最後の言葉は
じゃあね行ってくるよ
君は何も知らぬ微笑みで
行ってらっしゃいと言った
どこまでやれるか
できるところまで闘いたかった
だがそんな事は君に聞かせる事じゃない
いつも本気は本音では言えないもの
冷たいと君は泣くだろうか
それとも僕を憎むかい
もう少し待っていてね
届くはずのない返事を書くから
窓から見える景色
目をあげると
通りに面したラウンジから見える
窓ガラスの向こうは広い舗道になっていた
西向きなのに
天井まである大きな窓のせいでとても明るかった
目の前は建設現場だった
よく見るとあちらこちらで建築作業が行われていた
ここは病院通り
大きな病院や薬局が建ち並んでいる
これからまだ病院が増えるようだ
なにか釈然としない思いがする
病人を作っては金を吸い込んでゆく
そしてその金はより豊かな者にのみ還元されてゆくのだった
病人を作り搾取する経済が出来あがっているのだった
富める者がより豊かに
貧しき者はより貧しく
病める日も
貧しき日も
人の欲の分だけ
まるでネズミ講のように物は増え続けるのだった
健やかなる日も
富める日も
人の欲の分だけ
その富の中で幸せに生きる者は増え続けるのだった
それがこの国の幸せの形なら
名も無き者の詩う歌など誰の耳に届くのだろうか
病院の窓から見える景色は
今日も青い空に覆われていて
希望が胸をナイフのように切り裂くのだ
形の無いもの
あたたかさ
笑顔
甘える声
心
あの人が私にくれるもの全て
愛
秋恋
秋になり
あの人からの
返事来ず
ひとつの季節が終わりました