とある幼子にはふたりきりの時にだけ話す存在が居た。きっと生まれてから傍についていた姉が亡くなったことが影響したのだろう。所謂イマジナリーフレンドというものだった。粗悪な家庭環境のなか、独りでも平然といられたのは空想の友人のお陰だったとも言える。
そんな中、更に幼子に不幸が襲いかかる。
小学校にあがる頃、まだ幼子は未熟だった。本来年相応に携わるはずだったコミュニケーション能力が欠如していたのだ。良く言えば大人しい、悪く言えば暗い子というのが他人から見た幼子の評価だろう。
幼子は早々に虐めの標的にされた。具体的に言うなれば虐めっ子と呼べる1人に目を付けられたのだ。小学生特有の幼稚な内容ではあったが、いつまでも続く虐めに幼子の心は蝕まれていった。
空想の友人は励まし続けたが、幼子は限界を迎えた。
学校からの帰り道、ふたりきりの会話が途切れた交差点で、幼子は消えた。決して神隠しではない。身体は青色の信号を眺め直立していた。幼子の精神だけが何処かへ消えたのである。
突然の事態に驚いた架空の友人は幼子を守ろうと咄嗟に交差点を渡り、帰宅した。
それから間もなくして虐めっ子が転校し、虐めから解放された友人は幼子のことを想い努力を続けた。他人からの評価が前述から面白い、明るい子と著しく変化する程だった。
10年以上の時が経つが、幼子は帰って来ていない。あの交差点を通る度、辺りを見渡そうが名前を呼ぼうが見つかることは遂になかった。
そして身体はもう、とっくに馴染んでしまった。
そうして形のないものだった友人は実在する本人と成ったのである。
大学生になると同時に化け物の元から逃げ出そうと一人暮らしを始めた。
しかし、ほんの数ヶ月で化け物は己の立場を利用して大学の教師連中を味方にし、こちらの居所を突き止めた。
その頃から声が止まない。
外から物音がする度、化け物共の足音が、唸り声が聞こえてくる。
来る。向かって来る。
こちらが消えるか、あちらを消すかしなければ一生逃れられない。
そんな思考が落ち着く頃にはいつも部屋中が荒れ果てていた。
学歴も友人も皆捨てて半ば蒸発するかたちで姿を眩ました。
今の家ではもう声は聞こえない。
静か過ぎるくらい何も聞こえなくなった。
またあの声が聞こえたらと考える度、心臓の音がバクバクと煩く鳴っていた。
友よ忘れておくれ。
思い出の品々はもう灰と化してしまった。
せめて空想でも納得しておくれ。
見知らぬ土地で見知らぬ誰かと添い遂げてるだろう。
いっそ書換えておくれ。
こんな奴など初めから居なかった。
友よ、どうか、ゆるしておくれ。
貴方達の幸せを永遠に願っている。
陽が上り始めたばかり、空がほんの少し明るく照らされた瞬間に時が止まれば良い。と、思考し捻り出す。
ひとりぼっちの世界を隅々まで堪能するのだ。
実際のところ、誰も彼もがいなくなれば良いと願っている。
夜景を創る側の人間だ。
地べたで這いずりまわって光を発させている。
高みの見物をしている側のことなんぞは考えない。こちらにそちらを認識する余裕なんてなかった。
第一、人口の光よりも空に輝く星々や陽射しを反射させる水面が好きなのだ。
もしもあの自然の光を創り出す側になれたのなら、どれだけ良いだろうか。