「それは独占欲にも似て」
その始まりは、君がテレビに映るアイドルをポーッとした表情で見ていた時。
ふうん。こういう男がいいのか。
そう思った。
次は学校の先生。
その次は部活の先輩。
意外と惚れっぽいところがある君だけど、見る目はないみたいで、実らない恋を重ねていった。
その度に胸を撫で下ろしていた男がいたことを君はきっと気づいていない。
どんな風に君は好きな人と歩くのだろう。
幼馴染でまるで家族のように気のおけない俺と会う時とは違う髪や服で。
もしかしたら、話し方も違うかも。
どんな風に君は好きな人と……その先を知りたくなくて、知りたくて。
それより先に言うことがあるのに、言えないまま。
────もっと知りたい
「カウントダウン」
この街を出ていく日が、近づいてきている。
日の出が早くなり、最低気温が上がっていく。
春が、来る。
三月の中旬にこの町から出て行く私は、この町で今年の桜を見ることはできない。
こんなことなら、昨春もっとちゃんと見ておけばよかった。
自転車を漕ぐ。
緩やかな登り坂の傾斜がきつくなっていく。
薄川(すすきがわ)にかかる筑摩橋(つかまばし)からの眺めが好きだ。
観光資源が豊富な街の、観光スポットでもなんでもない、何気ない風景。
ドラマティックな展開なんていらない。
四季折々の風景をいつまでも同じ場所で見ていたいだけだ。
そのことに初めて気がついた。
あと何回、この景色を見られるだろう。
そう思い始めた時から、どんな風景もキラキラと輝いて見えるようになった。
────平穏な日常
「ヒーローになりたかった悪役」
子供の頃にテレビで見たヒーロー。
俺もそれに憧れていたし、なれると信じていた。
だけど、いくら頑張ってもジャンプしただけで屋根の上へ飛び移ることはできない。
あの頃テレビで見たヒーローは作り物で、大きくなるにつれてそれを知る。
それが大人になるということ。
でも、どこかでずっと憧れ続けていた。
いつかヒーローになりたいって。
そんな俺は今、ヒーローショーで、悪役をやっている。
悪役あってこそのヒーローもの。
俺はこの仕事に誇りを持っている。まぁ、世間的にはバイトってやつなんだが。
今日もまた、ちいさなおともだちや大きなお友達の前で闘う。
ひとりでも多くの人に世界中の愛と平和を守るヒーローを目指してほしいと願いながら。
────愛と平和
「離れたからこそ」
「ひとりで立つことが出来なければ、どちらかが倒れた時に共倒れになるぞ」
その忠告に、今は感謝している。
一緒に育った俺たちは、お互い依存していたのだ。
今から思えば、ふたりが離れて暮らしたあの日々は、必要な時間だった。
始まる前、自分たちのした選択なのに辛くて逃げようと思ったこともあった。
たった数年。
長い人生のなかでたった数年だと言い聞かせて、宥めた。
実際には、実りの多い期間だったと思う。
同じ目標を持つ仲間たちと出会ったこと。
自分のこれからの人生について深く考える時間を持てたこと。
離れていても君の存在に支えられていることに気がついたこと。
ふたりで過ごす限られた時間の煌めき。
きっと人生を最初からやり直せても、同じ選択をするだろう。
────過ぎ去った日々
「友情は二番目」
彼女の趣味は貯金と筋トレだった。
「筋肉は裏切らないっていうけど、お金も裏切らないと思うのよ」
それが彼女の口癖。
預金の残高を眺めてニヤニヤ。
体脂肪率を計測してニヤニヤ。
そんな彼女だが、ある日救急搬送された。戸惑う間もなく、即手術。
ひとり暮らしで親も親戚も遠方。
冷えかけていた仲の恋人は見舞いに来ることはなく、唯一の友人が見舞いに来た。
「健康が一番ね……」
しみじみと呟くように言う彼女は、一週間の入院でずいぶんと痩せてしまったように見える。
「そうだね」
それだけ言って、友人は彼女の肩にかかるストールの位置を直した。
「彼氏とは……別れることにしたよ」
窓の外の空を見ながら、息を吐く彼女。
ずっと躊躇っていたけど、今回の件で踏ん切りがついたのだ。
「うん。それがいいと思う。彼女が入院したのに、一度もお見舞いに来ないなんて、冷え切っていたとはいえ、いくらなんでもありえない。ひどすぎる!そんな男、こっちから振ってやればいいよ!」
自分のことのように憤慨する友人の姿を見て、彼女は胸が温かくなるのを感じた。
「私と友達でいてくれて、ありがとう」
────お金より大事なもの