「印」
真っ白な君に印をつけていく。
君には見えないように、君以外の人には見えるように。
人を疑うことを知らない君は、気がつかないだろう。
どんなに印をつけても、君はずっと真っ白なまま。
それが愛しくもあり、悔しくもある。
どんな色にも染まるはずなのに、どの色にも染まることがない。
それが眩しくて、遠く感じてしまう。
真っ白な君に印をつける。
そんなことしなくても、君は隣にいてくれるはずなのに。
────無垢
「永遠の誓い」
物心つく前から一緒にいるから、離れることなんて想像できない。
「死がふたりを分つまで」と言うけど、何度生まれ変わっても、ずっと一緒だ。
命が尽きるときは、ふたり同時期がいい。
そうしたら、また同じ年に生まれ変わることができるから。
これだけは譲れない。
君と同じ年に生まれ、ずっと、ずっと一緒にいること。
たとえ他の世界に生まれ変わっても。
何度も、何度も、君と恋をして、愛を確かめていく。
────終わりなき旅
「利害の一致」
幾度となく謝る貴方に首を振る。
貴方から持ちかけられた、偽りの関係。
付き合っているフリ。偽の婚約者。
貴方は自分の都合で私のことを利用していると思っている。
期限付きの関係。
貴方が目的を達成するまでの、カモフラージュ。
願ったり叶ったりだ。
利用しているのは私も同じ。
決して実ることはない、恋。
果てしなく、現実に近い夢を見させてもらっている。
私は貴方と過ごす日々を、一生の思い出にしていく。
謝るのはこちらの方。
貴方が本気で私を好きになったとしても、私は本当の気持ちも、想いも、告げることはできない。
────「ごめんね」
「アクセント」
「暑い……半袖にすればよかった」
何気ないひとりごとに、以前から密かに気になっていた同じサークルの女子が食いついた。
「もしかして、長野の人?」
「……そうだけど。なんで」
「えっと『半袖』のイントネーションがそれっぽいなぁって……あの、兄が比較言語学の研究していて……」
マジかよ!
自分では標準語を話しているつもりだったのだが。
「えっと……なんか……変なこと言っちゃったかな。ごめんね」
「いや……」
「ほ、ほら、方言だと思ってない言葉って、どこの地域にもあるって兄も言ってたし。東京だって方言あるから……『れんこん』を『はす』とか『青物市場』のことを『やっちゃば』とか……」
フォローになっていないようなフォローだが、彼女とはそれがきっかけで親しくなった。
しかも、あとから聞いた話では、なんとかして俺と会話をするキッカケを掴みたくて話しかける機会を伺っていたのだという。結果オーライということにしておこう。
────半袖
「初めて学校をサボった日」
初めて学校をサボった。
近所の小学校から、運動会のリハーサルの音が聞こえてくる。
窓もカーテンも閉めた部屋のベッド。
布団を頭からかぶっても聞こえてきて、息が詰まりそうになる。
一番落ち着く場所にひとり。
普段は安らげる空間。
外界の様子なんて、知りたくないのに。
眠ってしまえばいいのかもしれない。
だけど、こういうときに限ってなぜか眠れない。
急かされるメロディーが頭の中にこびり付いて離れなくなりそうだ。
こんなことなら、這ってでも学校に行けばよかったのだろうか。
何も知らない頃に戻れたらいいのに。
明日なんて来なければいいのに。
アップテンポな曲に合わせて、まわる。
胎児のように体を丸めて、嵐のような音が通り過ぎるのを待っている。
────天国と地獄