「記憶の空」
子供の頃、自分が住む東京の空と、祖父母が住む田舎の空は違う空だと思っていた。
昼間は青い色の濃さが違うし、夜は星の数が違うから。
もしも都会の灯りが全て消えたら、どれくらいの星を見ることができるのだろう。
手を伸ばす。
片手で足りてしまう空の光の数。
祖父母の家からは、天の川も見えたのに。
今はもう無い祖父母の家の庭から見た空。
記憶はどんどん薄れていくのに、あの星空だけは覚えている。
それを忘れたくなくて、もっと多くの星を見たくて、私は辺鄙な場所を選んで旅に出る。
────星空
「あまやどり」
本来なら、出会うはずがなかった。
生まれた地域も、住む地域も、趣味も、なにもかも違うふたり。
なぜ、あのときこの街に来たのか。
面倒だからと旅行なんてしないのに。
しかも有名な場所でもなんでもない場所。
なぜ、あのときあの店に入ろうと思ったのか。
雨宿りできる場所なんて、他にもあったというのに。
雨ではないもので頬を濡らしていた君に声をかけてしまったのは、偶然なのかそれとも……
────神様だけが知っている
「茨の道」
「君が進みたいのは、茨の道だぞ」
あの人はそう言いつつも、その道を歩きやすいように整備してくれていた。
そのことに気がついたのは、だいぶあとになってからだったが。
「ここから先は、君の好きにすればいい」
そう言って背を向けたあの人を追いかけて、ずっと追いかけて、今も追いかけている。
あの人が天へ還っても、ずっと。
だから、あの人と同じように君の進む道を、茨の道から人がギリギリ歩けるくらいの道に整備している。まだ若い君には気付かれないように。
────この道の先に
「アルミシート」
雨戸がないこの部屋は、遮光カーテンをかけていてもカーテンレールの上から朝陽が差し込んでくる。
引っ越してきた当時は冬だったので気ならなかったが、日の出時刻が早まるにつれ、あまりの眩しさにアラームの設定時刻よりも早く目を覚ますようになってきたのだ。
「とはいえ、あまりお金はかけられないし……」
とりあえず、百均でアルミシートを購入し、カットしてカーテンレールの上にセットしてみる。
なかなか良いが、見た目があまり良くないのが難点。
「ま、彼氏もいないし。誰か泊まりに来るわけでもないし。いっか」
翌月、彼氏が出来ることを、この時の私はまだ知らない。
────日差し
「夜空に咲く花」
腹に響く振動に、胸が高鳴る。
部屋の灯りを消して、カーテンを開ける。
やはりこちら側だ。
この時期、この時間に窓を開けてしまうと、虫が入ってくる。
一瞬、躊躇して、結局開けてしまう。
色鮮やかな、空に伸びる光が咲き乱れる。
「自治体名 花火」で検索すると、届出済の花火の予定一覧が表示された。
「学校行事による……」
あぁ、そうか文化祭か。
文化祭の後夜祭の花火なのだろう。
漫画や映画の中でしか存在していないと思っていた。
生まれる場所が違ったら、育った地域が違っていたら、もしかしたら、漫喫していたかもしれない青春。
脳内で浮かんで消えていく。
最後、一番大きな花が咲いて、散る。
手を伸ばしても、届かないそれに蓋をするように窓を閉めた。
────窓越しに見えるのは