「君の話は、聞きたくて聞きたくなくて」
「君の話は、つまらん」
「もっと実りのあることを言えないのか、君は」
「その話、僕に何か関係ある?」
元カレに言われた台詞の一部抜粋である。
こんなことを言われては、話す気力が無くなってしまうのも、好きだという気持ちが綺麗さっぱり無くなってしまうのも仕方ないと思う。
「ひでーな、そいつ」
幼馴染は、そう言ってビールを飲み干した。
高校卒業してからすっかり疎遠になってしまっていた私たち。
数年ぶりに会ったはずなのに、それを感じさせないのは、幼い頃に一緒にいたからなのだろうか。
「俺だったら、好きな子の話ならどんな話でも聞きたいと思うけどな。つーか、好きな子の話って、全然つまんなくねーし」
そう言いながら、何か追加で注文するものあるか、とタッチパネルを操作していく。
なんだか不思議だ。
こいつと、こうやってお酒を飲んでいるなんて。
さっきからペースが早いけど、普段からこんな感じなのかな。
「そっか……男女の違いなのかと思ってた」
「他の男はどうだか知らないけどな。あくまでも俺の考え……まぁでも、好きな子の元カレの話は、正直あんま聞きたくねーけど」
────つまらないことでも
「昨夜のことは、すべて私のせいだから」
夜が明けるまでに、この部屋を出ていかなくてはならない。
昨夜の出来事が夢だったと貴方に思わせるために。
あの夢のような時間は、夢でいい。
貴方と私は「そういう関係」には、なれないのだから。
すうすう……規則正しい寝息をたてている貴方。
そっとベッドから降りる。
手早く身支度して、昨晩の痕跡をひとつひとつ消していく。
消せないのは、私の記憶だけでいい。
ずっと、ずっと好きだったから、昨晩のことは夢だったことにしたい。
これからも、この関係を維持するために。
貴方が罪悪感を抱かないために。
貴方はまだ夢のなか。
そのままずっと、夢を見ていて。
そうすれば、私もずっと夢を見ていられるのだから。
────目が覚めるまでに
「自堕落な入院生活」
動けないわけではないけど、動く気持ちになれない。
スマートフォンの持ち込みや使用は禁止されていないけど、触る気力も起きない。
昼間は検査と食事以外は寝て過ごしているから、消灯時間である二十一時に眠れるわけがない。
個室ではないのに、まるでひとり部屋にいるかのようだ。
静かな六人部屋に響く空調の音は、余計なものを連れてきてしまう。
手術した箇所を気にしつつ、布団を被る。
こっそりとイヤフォンをつけて聴く、ラジオの深夜番組。
いつもの声に安堵すると同時に、いつもとどこか違うようにも聞こえ、不思議な気持ちになった。
眠りにつくのは明け方。
入院しているのに、昼夜逆転している。
昼間は平気なのに、夜になると襲いかかってくるそれのせい。
────病室
「明日が来るということは、絶望のようなもの」
『明日、晴れたらどこかに行こう』
「暑いからイヤ」
どうにかして私を外に連れ出したいアイツの誘いを突っぱねて、スマートフォンの電源を切った。
明日など来なければいい。
時が止まるより、私がこのままずっと眠り続けたほうが現実的。
それなのに、実現されないまま、季節が変わろうとしている。
いつの間にか眠っていて、朝になっていた。
あぁ、なぜ目覚めてしまったのだろう。
タオルケットに包まってため息をついていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「さ、出かけるぞ!」
いくら幼馴染とはいえ、お互いもうお年頃なのだから、ノックもせずにドアを開けるのはやめてほしい。
「嫌だ。帰って!」
現実は見たくない。
夏が、来たのだ。
来なくてもいい今日を連れて。
────明日、もし晴れたら
「恋しいのは、ひとり」
それは、始めはただの疲労の蓄積かもしれなかった。
終わりのない忙しさは、私から判断力と気力、それからほんの少しの情を奪っていく。
ただ、会いたかった時期もあったはずなのに。
何もしなくても、会話がなくても、隣に居るだけでそれでよかった。
あなたに非があるわけではない。
だから、あなたのその純粋さで息ができなくなっていく気がする。
子供の頃から休日は家でゴロゴロしていた。
ひとりっ子だし、友達もいなかったから、暇つぶしは、気まぐれに読書をする程度。
それは大人になってからも変わらなかった。
それを崩したのは、あなたと付き合い始めてから。
あぁ元々の性質が違っていたからなのか。
しばらく会えないという文字を入力する。
躊躇わず送信した私は、近いうちにあなたと出会う前の生活に戻るのだろう。
────だから、一人でいたい。