小絲さなこ

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9/23/2024, 3:18:55 PM

「もう潮時か」



子供の頃よく遊んでいた公園からジャングルジムが撤去されたそうだ。

その公園は、通学路とは反対方向にある。
高校生になってからというもの、その公園の前を通ることが減ってしまったから知らなかった。


「遊具を撤去する公園って、増えてるらしいよ。とくにジャングルジム」
「へー。なんでだろ」
「危ないからじゃない?」
「そんなん、今さらじゃね?」
「あんたも何回も落ちて怪我してたしねぇ……」

幼馴染がニヤニヤと笑いながら俺を見ている。
小学生の頃から高校生になった今も、一緒に登下校しているが、彼氏彼女の関係ではない。まだ……

話題にのぼったからと、少し遠回りして懐かしい公園に寄り道。

「あー、本当にないね」

子供の頃、広かったと思っていた公園は、それほどでもなくて、それは俺たちがそれなりに大きくなったから。
でも、体は大きくなっても、それ以外が成長しているかどうかはわからないよな、などと思ったりする。


「一番上に登ったとき、自分最強だと思ったなー」
「そのあと落ちてビービー泣いてたけどね」
「うるせー。忘れろ。そういうお前は、怖がって一番上に登って来なかったじゃねーか」
「だって、危険だってわかってるのに、行こうとは思わないもん」
「……ほんと、変な子供だったよな、お前」
「でも、ずっと友達でいてくれてるあんたも変だよ」


あの頃からずっと一緒にいる俺たちだが、三年後どうなっているかわからない。

この公園の遊具のように、ある日突然俺の隣から居なくなったりとか……そう、彼氏が出来たり……
それだけは勘弁してほしい。


「そろそろ友達は卒業したいんだけどな……」

思わず呟いてしまった一言。

どういう意味かとしつこく聞いてくる。
あぁ、もう潮時か。この気持ちを隠しておくことは出来そうもない。


────ジャングルジム

9/22/2024, 10:09:13 PM


「護ってくれる声」

誰かが呼んでいるような、引き上げられるような感覚がして、自然と瞼が開いた。
白い天井。
薬品の匂い。
ガードされるようにカーテンでぐるりと囲まれている。
病院のベッドか。

「……いきて、る……?」

正直言うと、死を覚悟していた。
胸を撫で下ろす。


眠い。ひたすら眠い……

あの時、聞こえた声は何だったのだろう。
あれがなければ、どうなっていたことか。
あの声がしたから、反射的に身体が動いたのだ。


頭がおかしい子だと思われるからと、誰にも言ったことはないが、危険なことに巻き込まれそうになると、どこかから声が聞こえるのだ。子供の頃から。

神様なのか、ご先祖様なのか、早くに亡くなった両親かはわからない。
以前はそれを知りたかったが、ここ数年は、あの声の主がどこの誰かなんて、そんなことはどうでも良くなった。

いつも護ってくれる存在に感謝しつつ、ゆっくりと瞼を閉じる。


大丈夫。なんとかなる。
何もかも失ったけど、生きているのだから。


────声が聞こえる

9/21/2024, 3:35:28 PM

「指を絡めて 花火」


虫の鳴き声が響く夜。
ドキドキしているのが、バレてしまいそうな距離。
大丈夫。
隣の幼馴染は、花火に夢中で気がついていない。
どこかの神社の例大祭で打ち上げられている花火。

いつまでも暑かった秋は、やっと気温を下げる気になったようで、ここ数日一気に涼しくなった。
だからだろうか。
幼い頃のように、こうしてくっついて座っているのは。

「冷えてきたな」
「そうだね……」
「窓、閉めるか」

立ち上がって、窓を閉めて、また私の隣にくっついて座る。
そうするのが当然だというように。


囃し立てるような虫の鳴き声。

そんなんじゃない。そんなんじゃ、ない。
彼氏彼女の関係ではないはずだ。

それなのに、どうして私たちはどちらからともなく指を絡めるのだろう。
そうするのが、当然だというように。


どういうことなのか、聞きたい。
だけど、聞かなくてもいいような気もしてる。

今さら、言葉で確認するようなことだろうか。
お互いの体温が心地よいことは、わかりきっている。


窓越しの締めの花火。
近づいてくる唇に、瞼を閉じる。



────秋恋

9/20/2024, 4:27:07 PM

「誰かに食べられちゃう前に」


触れたくて、触れたくて仕方ない。
だけど、一度触れてしまったら、きっと、もっともっと触れたくなってしまう。
もしかしたら、壊してしまうくらいに。

壊したくない。
だったら、触れなければ良い。

そう、思ってしまったんだ。


「……うん、言い分はわかった」
「わかってくれるか!」
「頭ではわかったけど、感情的にはわかりたくない、かな」
「お、おう……」

付き合い始めてから半年経っても手を出さない俺にしびれを切らした彼女が「なんで何もしてこないのよ。私に魅力が無いってこと?」「それとも本当は私のこと好きじゃないの?」と半泣きで迫ってきた。


感情を言語化するのは難しい。
だけど、俺なりに精一杯頑張って言葉にしてみたのだ。
だが、彼女にはイマイチだったらしい。


「と、とにかく!女としての魅力がないとか、そういうんじゃないから!」
「そう」
「そうなの!」
「だったら……くらい、してよ」
「……いや、だからそれは……俺の話聞いてた?」
「聞いてたよ。でも、でもさぁ……好きなものは先に食べなきゃ誰かに食べられちゃうじゃん」

そういやこいつ、好きなものは先に食べる派だったな。
俺は最後まで取っておくタイプだから、分かり合えないのかもしれない。


「だから、ねぇ……私からしても、いいよね」
「いや、だから、話聞いてた?」
「黙って。目を閉じて……」
彼女はそう言って俺の顎に手をかけ────



────大事にしたい

9/19/2024, 3:10:07 PM


「遠距離片想い」



遠距離恋愛だったら、どんなに良かっただろう。
私がしているのは、不毛な恋だ。
遠距離で、絶対に片想いだとわかっている恋。
なぜなら、彼はあの子のことが好きだから。


「グループ内で恋愛なんて、絶対あとで面倒なことになるから、あたしはしないなー」
何気なく言ったあの子の言葉に、一瞬彼の顔が引き攣る。

「たしかに。別れたら気まずいことこの上なし!」
「だよねぇ!」

あの子にはバレないように、こちらにあの子の視線を向けさせる私。
何を言っているのだろう。
グループ内で、片想いをしているのに。しかも何年も。


年に数回しか会えないことを感じさせない会話はつづく。
帰りの特急電車は予約していない。
明日も有給取得済み。

片想いで、他に好きな人がいるってわかっているのに、私は何を期待しているのだろうか。



話に夢中になっているフリをして、わざと逃した最終電車。
家路につくあの子と別れて、彼とふたり夜の街を歩く。
ひとつひとつ消えていく店の灯り。



遠距離恋愛だったら、どんなに良かっただろう。
私がしているのは、不毛な恋だ。
何年も何年も実らない恋を抱えている彼に、私は何年も何年も実らない恋をしている。


ネットカフェに向かおうとする彼の背中に抱きつくことができたらいいのに。

そんな勇気があったら、とっくに告げている。


どうか今、ここで世界が終わってほしい。




────時間よ止まれ

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