小絲さなこ

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10/23/2024, 9:50:40 PM


「傷の舐め合いだと、人は言う」


まるで夏のような太陽の光の気配。
カーテンから漏れる光は、私を現実の世界に引き戻してしまう。
仕方なく開けるカーテン。
手を伸ばせば届きそうなくらい低い雲は、雪のように白い。
濃い空の色が、目の奥を焼いているようだ。
眩しくて、眩しくて、私はこんな時間に何をしているのだろうと、自分を責めそうになる。

パソコンのスリープを解除。
入り浸っている文字チャットルームにログイン。
この時間だと、私と同じような状況の子たちがインしていることが多いのだ。


『雨のせいか、頭痛がー』

『事故に遭ったときの傷が痛いと思ったら、気圧か!』

天気予報アプリをチェックする。
全国的には雨の所が多く、晴れているのは一部の地域だけ。

そういえば、子供の頃『同じ国なのに、晴れていたり、雨だったりするのはどうして。空は続いているのに、天気が違うのは、どうしてなの?』って、思っていたなぁ


晴れていると気分が落ち込むのはどうしてなのか。
わかっているけど、認めたくない。認めるのが怖い。


『こっちは晴れてるよ。気が滅入る』

頭に浮かんだ言葉をそのまま打ち込み、リターン。

『あー、わかる。曇りとか雨の方が落ち着く』

すぐに返ってくる返信。


この子たちとこうして会話していると、ひとりではないと思えてくる。
これを傷の舐め合いだと言う人もいるが、それのどこがいけないのだろう。

このままではいけないと、自分でもわかっている。
でも、それをわかっているだけでも充分だと、自分に言い聞かせる。

明日は曇りだといいなぁ……


────どこまでも続く青い空

10/23/2024, 3:48:30 AM

「私服と制服」



俺の通っている高校には制服がない。
一見、自由で良いと思うだろうが、実は結構面倒くさい。
とくに男子生徒は、毎日毎日服装を考えなくてはならないのが面倒で、中学時代の制服のスラックスとシャツで登校しているヤツらも少なくない。
俺も基本的に中学時代のスラックスにユニクロのシャツで通学している。夏はポロシャツ。冬はVネックのニット。
面倒なのもあるが、もうひとつ理由がある。

「よ、よう」
「おはよう」

隣の家に住む幼馴染は、俺とは別の高校に進学した。
方向は違うのだが、通学時間はあまり変わらないようで、家を出る時間も同じくらい。
毎日ではないが、朝、顔を合わせることが、たまにある。今日はそんなたまにある日。ラッキーデーだ。

彼女の学校は制服が可愛いと評判の私立高校。
セーラー襟のジャケットに、白いブラウスにリボン。プリーツスカート──それは彼女によく似合っていた。

「あれ?」

先週の月曜日の朝に会った時は、夏のセーラー服にカーディガンを羽織っていたよな。

「衣替えか?」
「うん。そろそろ涼しくなってきたし。冬服でいいかなって」

ここ数年、残暑が厳しかったり、夏が早く来たりするため、五月から夏服着てもいいし、十月も夏服を着てもいいのだという。

「私服だと衣替えないから羨ましいなぁ」
「いやいや、私服なんてめんどくせーんだって。だからこんなカッコしてるんだし」

くすくす笑う彼女と、通りまで歩く。

「じゃあ、またね」
「おー」

彼女はバス停へ、俺はそのまま徒歩で学校へ向かう。
彼女の後ろ姿を見送り、息を吐いた。


「毎日会えるわけではないのに……」


我ながら痛過ぎるし、こうして分かれたあと、虚しくて落ち込みそうになる。

ふたりで歩くとき、同じ学校に通っている気分を味わいたい。

この格好をしている本当の理由は、誰にも言えない。



────衣替え

10/22/2024, 1:32:48 AM

「祭りが明けて」

今日は一日できるだけ声を出さないようにしようと思いながら、バスから降りる。
幸いなことに、家を出てからここまで会話をする必要はなかった。
学校前のバス停から校舎へ続く並木道は、色付いてきている。
ぼんやりと眺めがら歩いていると、ふいに名を呼ばれ、肩を叩かれた。
文化祭の準備期間、なんだかんだで話す機会が増えたクラスメイトだ。
ぺこり、とお辞儀をして応える。

「いやー、文化祭が終わったら一気に寒くなったな!」

そう言う彼の声は掠れている。
あぁ、私だけじゃなかったんだ。

昨日は、一日中呼び込みしたり、ライブで盛り上がったり、後夜祭で歌ったり……楽しかった。
その時間も、そのあと残った疲れも、この人と共有している。なんだかまだ夢を見ているみたい。


彼は自分の声のことをまったく気にしていないようで、私の隣の位置をキープしながら、ひっきりなしに話しかけてくる。

「なーんか、今日リアクション薄過ぎねぇ?具合悪い?」

覗き込まれ、心臓が飛び出そうになった。
思わず顔を背ける。

「それとも、俺のこと嫌い?」

いや、ちょっと待って。なぜ顔を近づけてくる?
近い!近いって!


「……ちが……こえ、あんま……でなくて……」

蚊の鳴くような声になってしまった。恥ずかしい。

「良かったぁ。せっかく仲良くなれたのに、嫌われたかと思った」

どくどくと、自分の心臓の音がうるさい。

期待しちゃダメ。
この人は、ただ、クラスメイトと仲良くなりたいだけ。


クラスの中心人物で、誰に対しても優しい彼のことを、ずっと密かに見ているだけだった。
彼は私と話したかったと言っていたけど、こうして気軽に話す関係になりたかったのは、私の方だ。

文化祭の準備で話すようになったけど、気がついたらそれ以上のことを望んでしまっていた。
それくらいは自覚している。


「片付け終わったあとの打ち上げ、来るよね?」

こくり。頷くと、彼は嬉しそうに笑った。



────声が枯れるまで

10/20/2024, 8:40:37 PM

「一目惚れからじゃない」



「いい加減に顔で好きになるのやめたら?」

恋愛小説ならエモいラブコメ展開があってもおかしくない、男女の幼馴染という関係。
だが、私たちにはそういうことは起こらない。


「そうは言ってもなー、やっぱ女は顔だと思うんだよ」
「サイテー」
「そういうお前だって、イケメンは好きだろ」
「まあ、観賞用としては、ね。でも彼氏にしようとは思わない」
「へーえ」
「私は、あんたと違って中身重視なの!」
「中身なんて、見ただけじゃわかんねーだろ」
「だから、会話して、何度もデートして、知っていくんじゃん」
「そういうもんなのか」
「そうだよ」

彼はとても惚れっぽい。
それだけではない。
彼の恋は長く続かないのだ。
いつも彼の一目惚れから始まって、猛アタックして付き合う。
そして、二週間経たないうちに別れる。
原因は、毎回同じ。
性格や価値観の不一致。


「その言い方だと、何度もデートしてるのか、お前」
「……まぁ、誘われれば。生理的に無理な相手以外なら」
「マジかよ」
「なに、そんなに意外?」
「あーいや、その……俺以外にもお前のこと、可愛いって思うヤツいるんだと思って……」
「バカにしてんの?」

どうせ私は、あんたの元カレたちに比べたら地味で可愛くないよ!

「いや、だからその、他にもお前のこと好きなヤツがいるんだと思うと、ちょっと焦ったというか、嫌な気分になったつーか……」

見たこともない表情を浮かべる幼馴染。
私は彼と距離を取ろうと一歩下がった。

「な、なに言ってんの……」

なぜ、私の胸は高鳴っているんだろう。
こんなヤツ……違うのに。
私の好みではないのに。


「一目惚れからじゃない『お付き合い』してくれねーか?」



────始まりはいつも

10/20/2024, 3:31:49 AM

「学園一の美少女は平穏を望む」



クラスの女子たちが歓声をあげる。
校庭で男子たちがサッカーをしていて、彼がゴールを決めたのだろう。
今すぐ窓に駆け寄りたいのを堪える。


「やっぱ、王子かっこいー!」
『王子』というのは彼のあだ名だ。
生粋の日本人で庶民なのに、なぜかそう呼ばれている。


彼の活躍に湧くクラスメイトとは対照的に、自分の席に座り本を読んでいる私。
それを見て、友人はため息をついた。

「ほんと『王子』に興味ないのね。勿体無い」

そして、このあと言うことは、誰も、いつも同じ。

「二人並べば美男美女で絵になるのに」

私は図書室に行くからと席を立ち、廊下に出た。


学園一のイケメンでサッカー部のエース。性格も良く、友人も多い。しかも成績優秀で東大現役合格も夢ではない、と言われている彼。
そんな男女共に人気ナンバーワンの『王子』に、私はまったく興味がない──ということになっている。




図書室のある別館へと続く渡り廊下に出ると、ひんやりとした空気に気持ちも引き締まるような気がした。

窓から見えるのは、澄んだ青い空。

向こうから、彼が歩いてくるのが見えた。
珍しくひとりだ。

一歩、二歩、三歩……

だんだんと近づいていき、目を合わすことなくすれ違い、遠ざかっていく。


平穏な学園生活を維持するため、高校では他人のフリをする。

それが、私が彼と交わした約束だ。


────すれ違い

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