「小さな一歩が大きすぎる」
「挨拶から始めてみればいいよ」なんて、あいつは言うけれど、それがどれほど勇気のいることか。
陽キャのあいつにはわからないのだろう。
席が近いというだけで挨拶していいのかな。
クラスが同じってだけで挨拶していいのかな。
変なヤツだと思われるんじゃないかって、思ってしまう。
「いや、席が近いのに挨拶しない方が不自然だろ。同じクラスなら、目が合ったときに挨拶しない方が感じ悪いよ」
そういうもの?
あと、挨拶したあとはどうしたらいいの。
「挨拶だけして自分の席で本読むなり予習するなり、好きに過ごせばいいだろ。話かけられたら応えればいいし」
えええ……
頭を抱える私にあいつは言う。
「挨拶してからそういう心配すれば?」
────小さな勇気
「アレと同じに例えないで」
驚かすのも驚くのも苦手だから、いわゆるサプライズも苦手だった。
だから、サプライズのパーティーするから協力してと頼まれるとモヤモヤする。
相手はサプライズ大丈夫な人なのかって思ってしまう。
「そんなわけだから、サプライズだったら協力出来ない」なんて言うわけにもいかず、逆に不自然な態度を取ってしまい、勘の良いターゲットにバレてしまうという……
「なんでいつもポーカーフェイスなのに、サプライズ隠しておけないのよ」
「だってさ、近くにイニシャルGがいるのわかっていて、平静を装うなんてできる?私には無理。それと同じだよ」
「アレと同じに例えないで!」
「それくらい、苦手ってこと」
────わぁ!
「第二章始まる」
想いが通じ合った幼馴染の、ふたりの初デート。
漫画なら、これが最終話かエピローグだろう。
いつもなら、昨日までなら、お互いの家の中間地点でバイバイしていた。
だけど、彼氏彼女の関係になったのだから、数十メートルでも彼女の家に送り届ける。
「これからも、よろしくお願いします」
右手を差し出すと、なにあらたまって……と言いたげな表情をされてしまった。
「ほら、今日からちょっと関係変わっただろ。だから……」
「そう、だね」
ぽぽぽぽっと頬を染める彼女を抱きしめたくなったが、耐える。ここは彼女の家の前!
握手をして、見つめ合う。
俺たちの第二章が始まる────
────終わらない物語
「姉の苦悩」
サンタクロースの正体を知ったのは、私が五歳、弟が三歳の時だった。
我が家のサンタはふたり。
そのうちのひとりは女のサンタで、私にこう言ったのだ。
「あの子には、私たちサンタの正体は内緒よ」
あれから十三年。
弟はいまだにサンタクロースの存在を信じている。
高校生にもなってどうなのかと思う。
だけど、弟の友人たちも本当のことを言わずにいてくれているなんて、あいつは恵まれている。
いや、私と同じく、いつまで信じていられるか面白がっているだけかも。
母は大丈夫かしらと心配しているが、大丈夫でしょう。サンタの正体知っても、弟のことだ、せいぜいプチ家出するくらいだろう。しかも家出先は、あいつの友人宅だろうから。
一方、私はいつの頃からか、サンタクロースの仲間になっていた。
毎年送られてくる、サンタクロースへの手紙の返事を書くのが私の役目。
弟は頑張って英語で書いてくれるんだけど、スペルとか文法とか色々間違いだらけ。添削したいのをグッと堪えている。
────やさしい嘘
「もしそれが本当なら」
もしかしたら、もしかするかもって、思っては打ち消していた。
彼の瞳に私が映っている。
たぶん、私の瞳には彼が。
保育園の頃──男女の違いもよくわかっていなかった頃からの付き合いだから、距離が近いなんて今さらだ。
だけど、付き合ってもいない男女の『ふつうの距離』ではないことくらい、この年になれば流石にわかっている。
もしかして、もしかしたらって──
それは、彼の気持ちだけではなく、私の気持ちも。
これ以上ないほどに近くなる。
期待、疑惑、混乱、そして、確信?
瞼を閉じて、それを確かめる。
────瞳をとじて