乙女の真心。
まだ余裕はあるのに、「人が多いから」なんていくらでも反論できる理由をつけてバスを1本乗り過ごしてみたり。
隣のクラスに行けばいいものを「仲いい子多いから」なんて雑すぎる言い訳を述べてわざわざ離れたクラスに忘れ物を借りに行ったり。
正論だけじゃ回らなくなってきた生活に、認めざるを得なくなってきて、それが秋の恋だなんて思ってみたり。
それを楽しかったと思えるのはもう少し大人になった時だろう、と目を細める母も、秋の恋に縋ったことがあるのだろうか。
合理に全く歯が立たなくて、ようやくできる抵抗が無理な言い訳をつけることだけだった秋の恋に。
色付いた木々が、理屈も理論も捨てしまいなさいな、カラカラ笑ってそう言って。
少しだけ素直に「会いたい」と口にしてみれば、ゆっくり回り始めた歯車。
それに便乗して、どうやら空も巡り始めたみたい。
苦手な男子と同じ班、とか。
なんとなく眠たい、とか。
左手の薬指の爪が割れた、とか。
キーホルダーがひとつ無くなった、とか。
まだ課題が終わってない、とか。
なんとなく小さな不安とか不満が重なって。
いつも頑張ってるし、なんて言い訳をして「保健室」と書かれた扉を開けた。
先生に寝る時間やら朝ごはんやらを聞かれる。
一体それを記入した紙になんの意味があるのか、なんて子供っぽいこと考えては元々用意していた回答を機械のように答えていく。
先生だってサボりだってことくらい気がついてるだろうに。
ごろん、とベットに寝っ転がる。
閉められたカーテンの中はさながら私だけの部屋で、やけに静かで、なんとなく意心地が悪かった。
タイピング音だけが響く静寂の中心で目を瞑る。
あ、課題、提出1時間後じゃん。
今日だけ、なんてつまんないこと言わないでよ。
コツコツ
遠くで音が聞こえる。
カタカタ
上から聞こえる
コトコト
下から聞こえる
パタパタ
後ろから聞こえる
ドキドキ
私から聞こえる
音が止んで、あなたが居て。
ふんわり笑って、優しく咲いた。