【ひなまつり】
私は五十二歳、未だ独身の女だ。
そういえば子供の頃、母に「ひな人形が綺麗だからしまわないで欲しい」と頼み、ひな祭りが過ぎてもしばらく飾り続けていた。
後から知ったことだが、ひな人形をなかなかしまわずにいると、婚期が遅れるのだとか。
もちろん、そんなものは迷信だと分かっている。だが、今も独身である自分の現状を考えると、単なる迷信だと一蹴することもできない。
ちなみに、昔から私の結婚願望は強い方だ。理想もそんなに高くない方だと思う。
今まで、何人かの男の人とデートをしたことはあるが、付き合う段階に進むことはなかった。いい雰囲気になっても、告白されるどころか相手がフェードアウトしていってしまう。
もしかすると、ひな人形が私の恋愛がうまく行かないよう邪魔しているんだろうか。
ひな祭りが終わったというのに、さっさとしまわなかったことを怒っているのかも知れない。
今年もひな祭りがやって来たけれど。
ひな人形を飾って、きちんと片付けていても今の状況が変わることはなかったから。
結局ひな人形は一ヶ月くらい飾っている。
もう一人でもいいや。
綺麗なひな人形を毎年一ヶ月も見ていられるなら、もうそれでいいや。
【たった1つの希望】
迷い立ちすくむ私を
あなただけが導いてくれた
まるで暗闇の中にぽつんとある
光のように
あなたは私にとって
たった1つの希望だった
闇の中にいる私の声が届かなくても
どうか光の中から
変わらず私を呼んでください
【欲望】
僕はどんなものも手に入れないと気が済まない
お金、人気、流行りの服や電化製品、好きになった女の子…
自分が欲しいと思ったものや気に入ったものは必ず手に入れる
どうやって手に入れてるかって?
僕の父さんはお金を腐るほど持ってるし
僕を溺愛しているから
欲しいと言えばすぐに叶えてくれるんだ
だけどね
僕が一番欲しいものは手に入らない
父さんはお金をくれるだけだから
父さんとのんびり話したり悩みを相談したり
それが一番欲しいのに
いつも父さんは仕事で忙しくしている
だからこそお金を持っているわけだけど
僕はきっと
父さんが居なくて寂しい気持ちを
他のもので埋めているんだろうな
父さんから貰った札束を握りしめて
満たされない欲望を思いながら唇を噛んだ
【列車に乗って】
寒い朝
列車に乗り込み
あなたに会いに行きます
ずっと会いたかったあなたですが
戦地で命を落としてしまったのですね
笑顔のあなたに再会できることを願っていましたが
まさか骨を受け取りに行くことになるなんて
列車の窓を開けると
冷たい風が吹き込んできます
吐く息は白く
外に積もっている雪も白く
冷ややかな空気は
私の悲しみをさらに深くさせました
【遠くの街へ】
私の住んでいる場所はつまらない
美術館や水族館があって
ゲームセンターがあって映画館があって
美味しいレストランもカフェもあるけれど
どれにも心は惹かれない
みんなが楽しそうにすればするほど
私の心は寂しくなる
同じ気持ちになれなくて
孤独を感じるから
だから私は遠くの街へ行くの
静かなところで住んでいる人が少なくて
小さなお店がいくつかあるだけでいい
時々仲良くなった誰かと
落ち着いたカフェでちょっと話すくらいでいい
うるさすぎて華やかすぎる今の都会を離れて
どこか遠くにある大人しくて優しい街に行きたい