Open App
3/28/2024, 1:16:47 PM

【見つめられると】

十歳の誕生日
僕は初めて万引きをした
四人のいじめっ子からいじめられている僕は
同級生に「俺らに渡す金が無いなら万引きしてこい」と言われて
スーパーの駄菓子コーナーから小さなガムを五つ、袖に隠した

そこは僕が幼稚園に通っているころから時々行っている
鼻の下と顎にヒゲが生えたおじさんと
その奥さんであるおばさんがやっている個人経営のスーパーだ
二人とも優しくて、これを食べて大きくなりなと言って
背が低い僕にこっそり野菜や果物をくれることがあった

僕は前に、おじさんがおばさんと「金が無いから、監視カメラはダミーのしか設置してないんだよなあ」と話しているのを
たまたま聞いたことがあった
だから僕は「ここのスーパーはどうかな」といじめっ子たちに言った
どうしても捕まりたくなかったから
いじめっ子たちも僕が万引きをするのは初めてだから、盗るのは小さな駄菓子でいいと言った

取ってきた五つのガムは
僕の手のひらから一人一つずつ取っていって
最後に一つ僕の分だけが余った
それを握りしめて家に帰って
おかえり、と言う母さんに返事もせず顔も見ないで
自分の部屋に入った

握っていた手を開いて
ガムを見てみると
前に母さんに買ってもらった時と同じデザインのパッケージなのに
全然違うものに見えた
描いてある犬のキャラクターも可愛い見た目なのに
今日はすごく怖く思えた

不意に聞こえたコンコン、というノックの音に飛び上がる
もう一度手の中のガムを握りしめて、ごくんと唾を飲む
続いて聞こえた声はひどく優しいものだった

「入るわよ」

母さんは微笑んで、だけど心配そうに僕を見つめた

「何かあった?」
「何も……」

いじめられていることも万引きのことも知られたくなくて
何も無かったと答えようと思ったのに
母さんに見つめられると
いつもこんなに僕のことを考えて優しくしてくれる母さんにここで嘘をついたら
僕はもうすでにクズだけど
今度こそ本当に本当に最低なクズになると思って
でもやっぱりなんて言っていいか分からなくて
何も知らないはずの母さんの優しい目に見つめられると
今日はその優しささえ怖くて怖くて
僕は泣きながら「ごめんなさい」と言って
いつの間にか強く握りしめていた手のひらを開いた
床に落ちた小さなガムは
握っていたせいで醜く歪んでいた

3/27/2024, 4:02:51 PM

【My Heart】

もっと心が強ければいいのにと
何度も何度も思った
気は強いのに傷つきやすい
厄介な自分だから

変に繊細だけれど時々大胆になる
そんな自分の心が
大好きで大嫌いだ

3/26/2024, 11:20:06 AM

【ないものねだり】

私の友達のエマは、ぱっちりした二重瞼の目が特徴の可愛い女の子だ。
一重瞼で切れ長の目をした私は、幼い頃からずっと、そんなエマの目が羨ましかった。

けれど、最近エマと二人で買い物に行った時、びっくりしたことがあった。
化粧品コーナーを見ていると、鏡が備え付けてあったので、私は用もないのについ覗き込んだ。
私の目は、隣に居るエマの目の三分の一ほどの大きさに見える。すでに分かっていることだけれど、こうして見てしまうとやっぱり落ち込む。
でも、私と並んで鏡を見ていたエマが言ったのだ。

「いいなあ。ハルカは鼻が高くて」
「えっ……?」
「私、鼻が低いのがコンプレックスなんだ」

言われて鏡をよく見てみると、確かにエマの鼻は可愛らしくちょこんとしているが、高い方ではないかも知れない。
自分の鼻が高いことは、時々周りから言われて自覚していたけど、あまり深く考えたり、誇らしく思ったりはしなかった。むしろ、エマみたいな目だったら……と自信のない目のことばかり考えていた気がする。

「私は、エマの目が羨ましいよ」
「目!?」
「小さい頃からずっと、エマみたいな目に憧れてたんだ」
「えー!私、小学生の頃は男子にギョロ目とか出目金とか言われて、目のことでからかわれてたよ!」
「そうなの?」

話を聞いてみると、エマは成長するにつれて目を褒められることが増えたが、子供の頃の経験もあって自分の目に自信を持っているわけではないようだった。そして私とは逆に、コンプレックスの鼻のことを考えてばかりいたらしい。

「そっか……知らなかったなあ」
「ハルカみたいな顔だったら良かったって、何回も思ったんだ」
「嘘でしょ!?」

だって、エマは可愛いから私の三倍くらいは男の子にモテるのに。けれど、エマは「誰かが褒めてくれても、自分は気に入らないの」といって力無く笑った。

――それから五年。
エマは、整形で鼻を高くした。本人には言えないが、まるで魔女の鼻みたいだ。
今のエマは男の子には全然モテなくなったけれど、幸せそうに笑っている。

3/25/2024, 11:08:30 AM

【好きじゃないのに】

学校で見かけるたび馬鹿騒ぎしてるアイツ
何が楽しいのか分からないけど
いつも友達とくだらないことで笑ったり叫んだりしてる
典型的な男子高生って感じだわ
確か名前は村井だったかな

「なあ山本」
「何?」

廊下を歩いていると
友達の輪から外れた村井が話しかけてきたので
冷たく返す

「昨日のお笑い王者決定戦見た?」
「見てない」
「つまんねえなあー。じゃ、俺が王者のネタの真似するわ」
「見たくない」

しかし、私が不機嫌さをわざと顔に出しても村井はめげない

「王者のジェットコースタープラネットの真似しまーす。『プリンアラモードッ!!』」

村井は変顔で叫びながら変なポーズをしている

「おい、村井と山本!廊下で騒ぐんじゃない!」

私がため息をつきかけたところで怒鳴り声がした
体育を教えている中津先生だ
よく青いジャージを着ている二十代半ばの若くて情熱がある先生
正直、どちらかというと大人しい私からすると
苦手なタイプだ

「騒いでません。村井が一人で騒いでたんです」
「えー!だって山本がジェットコースタープラネットのネタが見たいって言うからー」
「一言も言ってない」
「言った」
「言うわけないでしょ」

中津先生はしばらく私たちのやり取りを黙って見ていたが

「仲が良いのはいいことだが、廊下ではもう少し静かにな」

と言うと、笑いながら去っていく
その困ったような笑顔は大人っぽくて爽やかだった

「アンタのせいで怒られたじゃん」

村井にクレームを言いながら
中津先生の広い背中を見つめる
好きじゃないのに、なんでドキドキするんだろう

「俺のせいかよ!もうお前には、物真似見せてやんねえからな!」
「見せなくて結構」

隣で騒いでいる村井には全然興味が持てない
私の心は、もうここには無いみたいだ

あーあ
好きじゃないのに、な

3/24/2024, 12:53:46 PM

【ところにより雨】

今日はとってもいい天気よ、と
電話の向こうで君が明るく言う
続けて、ところにより雨らしいけどと笑うのを聞いて
そのところにより雨、っていうのが降ってるよと僕
あら、それは残念ね、と言うので
残念じゃないさと答える
雨が好きなの?と言うから
そういうわけじゃないと返す

今日の〇〇市の天気は晴れ
ところにより雨
雨が降っているのは憂鬱だけど
僕は雨音を聞きながら君の声を聞く朝が
好きなんだ

Next