【こぼれたアイスクリーム】
ベンチに二人
誰にも言えない悩みとか
密かな苦しみとか
ついつい話し込んじゃって
気づけば手の中のアイスクリームは
すっかり溶けていた
コーンからこぼれるそれは
甘く冷たく物悲しく
食べられるために作られたのに
食べられることなく芝生へと落ちていく
こぼれたアイスクリームが報われないように
僕がいくら悩みに耳を傾けても
苦しみを受け止めても
やっぱり君を救い出せない
君の笑顔を見たかったのは
僕もアイスクリームも同じだったのに
思い通りにはいかないみたいだ
【やさしさなんて】
優しさは、自分にとって必要だけど、いつでも必要なものではないらしい。
優しさなんていくらあってもいいじゃないか、と思うだろう。
けれど私は、優しさからの言動を疎ましく思うことがあるのだ。
そんなことは言われなくても分かっている。
それは自分でやりたい。
やってほしいのではなく、教えてほしい。
私はそんな言葉を何度も何度も、数えきれないほど飲み込んでいた。
優しさ、つまりは善意からの言動だと分かっているからこそ、言えなかった。
でも、それらの優しさがあったからこそ助かったこともあるし、嬉しかったこともある。それゆえに、私に全てを跳ね除ける勇気がなかったのも事実だ。黙って受け入れていた部分だって確かにある。
だけど、それなら私は、どうすれば良かったのか。
自分のためにと言葉をくれたり行動してもらったりしたとき、冷たい言葉を突きつければ良かったんだろうか?
それはそれできっと、相手の気分を害したことで罪悪感に苛まれていただろう。
せっかく優しさを持って接しているのにと、悲しませたり怒らせたりしただろう。
そしてそのあと、私に優しさが向けられることはなかったかもしれない。
私はずるいのかもしれない。優しさの全てを受け入れたくはないが、完全に失いたくもないわけだ。
それでも私は、優しさという名のお節介や経験泥棒を許すことができなかった。
きっと、きっと。
あなたからのやさしさなんて、なくても生きていける。
いや、生きていかないといけないのだ。
あなたがずっといるとは限らないから。
だからどうか、私から
意思を、経験を、選択を、奪わないでくれ。
【夢じゃない】
雨が激しくアスファルトを叩く日だった
耳をつんざくような雷鳴に急かされるように
俺は自分の家へと走っていた
けれど急ぐ理由は雨や雷のせいばかりではなかった
後ろから得体の知れない「なにか」が追ってきているのだ
黒い影のような輪郭を持たないそれは
人間が走るような形になって俺に迫ってくる
――捕まったら殺される
見た瞬間、直感でそう思った
全速力で駆けても距離が開かない
いつまでも同じくらいの距離で逃げ続けている気がした
だが、こちらには体力や疲れというものがある
必死で走っているのに、じわじわと距離を縮められていく
やがて足がもつれて転んだ瞬間
「なにか」は俺を捕まえて――
そんな、ひどい夢だった
目が覚めるといつも通りのベッドに寝ていた
嫌な夢だった
ふと、自分以外の人間が部屋にいることに気づき
思わず息が止まりそうになった
「おい」
声をかけると、そいつがゆっくりと振り向く
そいつは、「俺」だった
「俺」はこちらに向かってニヤリと笑った
自分でも見たことがないその表情に血の気が引いた
はっとして自分の手を見る
手は、輪郭を持たない黒い影でできていた
【心の羅針盤】
私の心は今
どこに向いているだろう
自分でも分からない
興味があるものもないものも
好きなものも嫌いなものも
やりたいこともやりたくないことも
なんとなくしか分からないのだ
ただなんとなく生きて
なんとなく時間が過ぎていく
そうやってなんとなく歳を取り
なんとなく死んでいくんだろうか
そんな悲しい未来は迎えたくない
心の羅針盤と向き合って
生きる意味を見つけたい
私は何が好きで何をしたいのか
ちゃんと知りたい
そしてそれが分かったら
一直線に向かいたい
今度はちゃんと生きたい
【またね】
そっと消えた命の灯
永遠の別れと分かっていた
それから骨になったのも
墓に入れたのも
この目で見ていた
だけど私は墓前で
「またね」と声をかけた
またいつか
会いたいね
どんな形でもいいから
また会おうね