【ここにある】
君が物心ついたころからずっと探している宝は
どんなことをしても消えない絆
何度も裏切られて失望した君は
その宝を追い求めてきた
僕は何も言わずその姿を一番近くで見ていた
君はたびたび愚痴を聞かせてくれた
分かり合える人に出会うのって難しいね、と
困ったように笑いながら
僕は黙ったまま頷いて
また宝を探しに行く君の背中を見送った
ある日、校舎の裏で泣いている君を見つけた
以前、君が仲のいい友達と
お揃いで買ったというストラップが
なぜだか二つとも君の手の中にあった
片方のストラップは無惨にも千切れていた
僕はなにも言わずに君の隣に座った
君はまたひとつ、
ずっと仲のいい友達だったのに、どうしていつもこうなっちゃうんだろうね
と呟いて、両手に顔を埋めた
僕はやっぱり何も言えなくて、ただそこに座っているだけだった
また一人になっちゃった、と
涙声で言うのが聞こえて
僕はそれは違うと言いたかったけれど
異性ということもあって素直に言えなかった
だけど僕は知っている
君が探していたものは
ここにある
【素足のままで】
自分が産まれるよりずっと前から、外に出るときは靴を履くのが当たり前のことになっているけど、人間はもともと素足のまま過ごしていたはずだ。
リビングで靴下を脱ぎ、裸足で玄関に行って、ゆっくりとした足取りで外に出てみる。
玄関先のコンクリートの床が案外温かい。少し日陰になっているとはいえ夏だし、温かいのも当たり前だが、裸足にならなければ意識しなかったことだろう。
庭に回って土の上を歩いてみれば、足の裏から心地よい温かさが伝わってきた。
この時代に靴も履かず、素足で大地を踏みしめていると、なんだか昔の人になった気分だ。昔の人たちにとっては、この温かさも珍しいものではなかったのだと思うと不思議な気分になる。ご先祖さまのことを考えつつ、時間を忘れて土遊びをした。
しばらく子どものころ以来の土遊びを楽しんだあと、庭から家の前に戻った。家の前の歩道はアスファルトで出来ている。歩いてみると、やや熱くてゴツゴツとしていて、ときどき細かな石を踏んでしまうたびに痛かった。
なにげなく向かいの家の方の道を見遣れば、飲みかけのペットボトルや割れた栄養ドリンクの瓶が落ちていた。
自分が小学生のころは、こんなにゴミなんて落ちていなかった気がする。悲しいような虚しいような、ほの暗い気持ちになった。うんと昔の人は、ペットボトルや瓶もなく不便だっただろう。だが、このようなゴミを見て気分が落ちるような経験もなかったはずだ。
生活が便利になるのはいいことだが、それに比例して人々が失ってしまったものや、忘れてしまったものもたくさんあるのではないかと思った。
今は素足だから、ガラスの破片なんかを直接踏んだら怪我をしてしまいそうだ。素足のままあまり遠くまで歩いていくのはよくないかもしれない。一旦帰るとするか。
素足のままでほんの少し歩いただけだったが、帰ってきて足の裏を見たら真っ黒だった。普段は靴が守ってくれているから綺麗なままでいられるんだなと思った。雑巾でひとしきり拭き取ったあと、風呂に直行した。強さの五段階調節ができるシャワーに、泡のまま出てくるボディソープ。昔と比べると便利すぎるアイテムを使って足を洗った。
素足のままで、この時代のこの世界を歩いてみたら。
今を生きる人々が忘れていたものに、ちょっとだけ触れられた気がした。
【もう一歩だけ、】
俺みたいななんにも持ってない人間は
存在していても迷惑だと思った
なにかを与えられるわけでもなく
なにかを作り出せるわけでもなく
なにかを成し遂げることはおろか
なにかを届けることすらできなかった
俺みたいな頭の悪い人間は
いない方がみんな楽に過ごせると思った
喧嘩ばかりで強がりで
役に立たないくせに文句ばかり言って
俺みたいな無気力な人間は
いてもいなくても同じだと思った
俺がいなくなっても
みんなは最初だけ悲しんで
すぐに慣れてしまうだろう
いてもいなくても
なんにも変わることはないはずだ
俺がこんな考えに至るまでには
たくさんの頑張りと悩みがあって
そういうものを当たり前のようにへし折られたり
無駄だと切り捨てられたり
どう足掻いても解決できなかったりした
最初から自分に存在価値がないと思っていたわけじゃない
もう一歩だけ、もう一歩だけ
そう言い聞かせて歩いてきたけれど
報われないならいくら歩いたって同じことだ
あと一歩、あと一歩
それが永遠に続く
明るい終わりはまったく見えてこない
あるのは今以上の苦しみだけだ
もう一歩だけ、なんて言葉に
俺はもう騙されない
【見知らぬ街】
引っ越してきたこの街には
私を知る人など誰もいない
私の過去の過ちも苦しみも
誰も知らない
見知らぬ店
見知らぬ公園
見知らぬ交差点
見知らぬ人
すべてが不安ですべてが新しく
すべてにわくわくする
今日、見知らぬ街で
私の新しい人生がはじまる
【遠雷】
あたしは平和に生きているんだ
なにを言われても今のあたしには届かないの
どれだけ怖い顔をされても平気だし
殴られたって気にしない
あたしは童話の世界のお姫さまだから
どこか遠くで雷が落ちていたって
あたしには関係ない
今日も王子さまや森の動物たちと楽しく過ごすの
魔女より怖いあの人が怒っていても
あたしとは違う世界のお話
驚いても傷が増えても
あたしは綺麗でかわいいお姫さまのまま