【安心と不安】
会社で残業をしていた時の話。
「30になると一気にくるぞ」
鈴木先輩が肩を回しながら言った。
「え?どういうことですか?」
私は聞き返したが、鈴木先輩はニマニマと笑いながら答えようとしない。
「まあいいか」
明日から30になる私からすれば気になる話ではあったが、どうせ大したことではないのだろう。
─翌日
「あっあっあ」
朝礼も終わり自席でメールを確認していた私は突如として異変に気付いた。
爪の先から血が流れ落ち、体の中からは何かが蠢いている感じがする。
ブシャー。
気づくと体から触手が生えていた。
しかも眼球は自由にとばせるし、なんならビームも出せるようになっていた。
異様な変化にしばらく慌てていた私であったが鈴木先輩の話を思い出し冷静になった。
なるほど。これが”くる”ということか。
その後、すっかり安心した私は触手で机に穴を開けたりビームで書類を燃やしたりして遊んでいた。
─それを遠目に見ていたのは他ならぬ鈴木であった。
「何なのあれ?」
【どうして】
新年会での出来事。
会が始まるやいなや新人の田中くんは進行役の幹事長を蹴り飛ばすと宣言した。
「これからテーブルクロス引きをします」
そして田中君は実際に各テーブルを回ってテーブルクロスを引きまくった。
しかし成功率は極めて低く、テーブルの料理は床に飛び散り悲惨なことになっている。
その惨状を目の当たりにした田中君は言った。
「料理が足りなくなってきたので厨房から持ってきます」
田中君が厨房に消えた後、私は心配になってきたので厨房を覗きに行った。
すると。
「何だこの料理は!」
シェフに文句をつけつつ、料理を床に叩きつけている田中君がいた。
厨房は台風が通り過ぎた後のようになっていて、下っ端の職員は血まみれで磔にされている。
─流石にやり過ぎだ。
私は田中君に注意した。
「め!」
すると田中君は不本意な顔をしながらも大人しく会場に戻って行った。
今回の騒動は酔った新人がちょっとヤンチャをしたということでそれなりに社内で話題になった。
補足をしておくと田中君は社長の息子である。
ちなみに田中君に注意をした私はクビになった。
【ありがとう、ごめんね】
会社での出来事。
私は車を駐車しようとしたが、アクセルとブレーキを間違えてしまい社屋にぶつかってしまった。
「あっ!やべ」
会社は炎上し倒壊した。
やがて中から社員が次々と出てきて犯人探しが始まった。
当然原因となった車を所持していた私が疑われ追求された。
「君がやったんだろう!」
「いつかやると思ってたんだ」
次々と心無い言葉が私を襲う中、新人の田中君が私を庇った。
「皆さん待って下さい。まだ先輩が犯人と決まったわけじゃないでしょう?」
私は田中を殴り飛ばした。
「来るのがおせーよタコ。あと適当なこと言ってんじゃねーよ」
田中は失神して倒れた。
役に立たん奴だ。
周りの社員たちはドン引きしている。
状況を悟った私は言った。
「やれやれ、これじゃあまるで僕が悪者だ」
そして私は田中君の車で会社を後にしようとしたが、アクセルとブレーキを間違えて別の社屋にぶつかり死んだ。
【飛べない翼】
水族館のペンギンコーナーにて
「ペンギンって飛べないらしいよ」
私は友達に持ち前の高度な知識を披露していた。
「本当だよ!嘘だったら2000万あげるから。こんなのが飛べるはずないだろ」
なぜか話を信じない友達に説明しようと不用意にペンギンに近づくと、
バチーン
ペンギンに叩かれた。
「かっっはぁ、、、」
私は体を壁に強く打ち付けた。
腕の骨は完全に折れ、衝撃は内臓にまで達していた。
痛みで声も出ない。
ペンギン「人間風情が舐めるな」
「大丈夫ですか?」
様子を見にスタッフが来た。
しめたぞ
私は最後の力を振り絞って立ち上がりスタッフにペンギンの悪事を告発しようとした。
しかし
バチーン
両足も砕かれた私は失神しながら崩れ落ちた。
その後ペンギンは自家用ジェット機に乗り家に帰っていった。
一連のやり取りはペンギンに近づいた不審者が勝手に転んで大怪我をしたということで処理された。
2000万円はもちろん友達に取られた。
【一筋の光】
今日はバイトの日。
私はかれこれ10年、十円玉を磨くバイトを行っている。
作業は単純で十円玉を磨くだけ。
ただし道具は使わない。
舌で舐めて綺麗にするのだ。
両親には高度な技術を要する清掃業務だと伝えている。
「レロレロレロレロレロー」
私は床に這いつくばって十円を舐めまくる。
当然楽な仕事ではない。
病気になる者もいるし、十円を喉に詰まらせて死ぬ者もいる。
こんな過酷な環境に耐えられたのもひとえに私が十円玉を愛しているからだ。
─話は10年前に遡る
(中略)
かくして光り輝く10円玉は私の人生に喜びをもたらしてくれるのだ。
「愛があれば何でも出来るのさレロレロレロレロレレロレロレロレロ」
ところが、
「ぎゃああアアアアアアーーー」
舌に衝撃が走った。
見るとなんと5円玉が混じっていたのだ。
十円玉を愛しすぎた私の身体は他の硬貨を受け付けなくなっていた。
十円玉を裏切った私は全身から血が吹き出し即死した。