さく、さくり。
から、からり。
彼が落ち葉を踏む音と、風が枯れ葉を舞いあげる音。
私はまだ、あの秋を忘れられずにいる。
「焼き芋フェスティバルがあるから行ってみよう」
そう言い出したのは私だったと思う。
いつも彼を外出に誘うのは私の方だったから。
彼はいつも二つ返事で着いてきてくれる。
なのに、私が誘わなければ一緒に出かけてくれない。
私もインドア派だから、結局家で通話する時間の方が多かったけれど。
思い出は多い方がいいと知っていたから、突然彼を誘って遠出する気になったのだ。
そのおかげで夏が過ぎて秋になってもまだ、君のことを忘れられずにいる。
キッチンカーを回って好きなだけさつまいもスイーツを頬張った。
私が食べきれなかった分は君の胃に収まった。
その後、秋服を買いにアパレルショップを覗いて、あーでもないこーでもないと君を3時間も付き合わせたね。
あの時はごめんね。私、わがままな上に優柔不断なの。
「どっちも似合う、俺は右が好み。だからお前は左の方買いたいんじゃないの。」
私のことをよくわかってる君の返答。
たしかに左の服の方が私の好みだった。
だけど君のその言葉が無性にうれしくて。
たまには君好みの服も着てあげようかな、なんて思ったりもして。
結局右の服を買ってみた。
すぐに雪が降ったから次の秋までお預けだったけどね。
そうして家に帰った…そうだ、帰り道にあったハプニングも忘れちゃいけないよね。
私が迷子になったんだっけ。
それで君が息を切らしながら走って探してくれたんだ。
この歳にもなって迷子なんて恥ずかしくて、情けなくて、ちょっぴり泣いちゃったこと、君は気づいていたかな。
思い返せば迷惑ばっかりかけてたね。
私は君にふさわしい人間じゃなかった。
それでも、相棒としてそばに置いてくれて幸せだったよ。
君はどうだった?
俺はお前に救われてる、って言葉はまだ有効ですか?
それから、君がいなくなってから気がついたんだけど、君は私の人生の道標になってたんだね。
「……私はあんたがいなくなってから、どう生きたらいいのかわからなくなったよ。」
少食な私の食べ歩きに付き合えるのは君くらいだから、もうあのフェスには行ってないよ。
優柔不断でわがままな私の買い物に付き合えるのは君くらいだから、服は通販で買ってるよ。
私が迷子になっても必死に探してくれるのは君くらいだから、もう遠出するのもやめたよ。
でも今日は特別。近くを歩いてみようと思うの。
カーテンの隙間から見えたイチョウの葉が、君の手のひらに落ちたものによく似ていたから。
あの日と同じメイクをして、君の好みの服を着た。
さく、さくり。
から、からり。
私が落ち葉を踏む音と、風が枯れ葉を舞いあげる音。
私はまだ、あの秋を忘れられずにいる。
"落ち葉の道"
君が隠した鍵
後で書きます。
手放した時間
レポート修羅場なので書けません。
後で書きたい。
⚠️ナマモノ⚠️
「輪廻」の第2章2節予定部分。
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2. 市街地
薄暗い森を抜けた先には、家々が立ち並ぶ市街地があった。
曲がり角や路地裏からの奇襲を警戒しながらゆっくり進み、一際豪奢な邸宅の前をじりじりと通り過ぎる。
ぱっ、と赤光が彼女の首元に閃く。
ぎりぎりで軌道を読み、弾き返した𓏸はバックステップで距離をとる。
×××「……ちっ、流石に警戒してたか。」
𓏸「咥え煙草。その癖治さないと生き残れてもせいぜい10年程度ですよ。」
×××「…心配しなくても、ここで死ぬあんたよりは長生きするさ。」
彼は従えていた4振りの刀の切っ先を𓏸に向ける。
ぎらりと光る赤黒い刃は今にでも突き刺さらんと主である×××の命令を待っている。
もう2振りは彼の両手にしかと収まっていた。
煙草の火を揉み消した×××とスコップの柄を握り直した𓏸は、互いの冷たい覚悟が滲んだ双眸を数秒見つめ、地面を蹴った。
交戦から5分。弾いても弾いても襲い来る4振りの刀に𓏸は防戦を強いられていた。
×××から目を逸らしたら死ぬ。
そんな予感が心臓を縛りあげる。
万に一つの間違いも起こらないよう慎重に飛び交う刀を捌く。
その一方、×××もまた決め手に欠けていた。
𓏸は飛び回る4振りの刀を制することにリソースを割いているため、武器は使えない。
自分の両手にある2振りの刀で彼女を切り裂けばそれで終わるはずだ。
しかし、彼女の氷柱のような視線が×××の手足を縫い留めていた。
迂闊な行動は、彼女のカウンターの餌食になるだろう。
膠着状態のまま10分が経った。
パキン、と軽い音を立てて砕け、地に落ちる4振りの刀。
15分にわたる緊迫した攻防。
先に音を上げたのは×××だった。
精神的疲労の蓄積によって崩れ落ちた浮遊刀は粒子となり消え去った。
そもそもこのアーティファクトは長時間使用に向いていない。
体力に不安のある×××に与えられた、起死回生の短期決戦型武器。
自在に武器を飛び回らせるのは非常に難しい。
3手先を見通す明晰な頭脳、繊細な軌道を即座にイメージできる高い想像力、そしてなにより膨大な精神的エネルギーを消費するのだ。
刀が完全に消失したのを確認した𓏸は、そのまま×××への攻撃を開始する。
戦局は一転し、疲労により精彩を欠いた×××はじりじりと押されていく。
握力の弱くなった左手の刀が弾き飛ばされる。
シャベルの先端が左頬を掠めて、彼の髪色と同じ深紅の線を引いた。
好機と見たか、真上にシャベルを振りかぶった彼女の胴にカウンターを入れようと×××は刀を横に振った。
一拍遅れて気がつく。
ああ、これはトラップだったんだ。
高く飛び上がった彼女は低く薙ぎ払うような×××の一撃を交わし、その頭頂部にシャベルを打ちつけた。
彼の誤算はたったひとつ。
××××は、彼が思っているほど冷酷な人間ではなかった。
心の片隅にあった、仲間に刃を向けることを躊躇う気持ちがいつもよりずっと早く彼の気力を削っていたのだ。
通常なら簡単に見抜けたはずの𓏸のトラップにも気がつけないほどに。
仰向けに倒れ込んだ×××は脳天が熱く燃えるような痛みを感じながら、諦観とともに目を閉じた。
𓏸の手の甲に黒く2の文字が浮かび上がる。
カウントが増えたということは×××の命は、今たしかに潰えたということ。
鮮やかな紅が彼の周囲を彩るように広がっていった。
"紅の記憶"
⚠️ナマモノ⚠️
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夢というのはなぜ失われてしまうのだろうか。
あんなに没入していたのに、目が覚めればその輪郭は急速に薄れて曖昧になっていく。
俺は夢日記をつけはじめた。
美しいあの情景を、出会う誰かの姿を忘れたくなくて。
それでも俺の夢は断片になって、散らばって、儚く散ってしまう。
○月✕日、誰かと会う夢をみた。爽やかな印象のある男だった。彼と電話をした。そのあとなぜだか一緒の部屋で何かを見ていた気がする。歌、旅行、カラオケ、ゲーム。
ああ、もう思い出せなくなった。ただ、彼と笑い合った瞬間の愛おしさだけ、心に鮮明に焼きついている。
俺はまだ何も知らなかった頃、誰かと何か楽しいことがしたいと思っていた、多分。
それは今でも変わらなくて。
ずっと俺の根本であり、生命の源と言ってもいい。
それでも小さい頃の夢は、大人になってなくなってしまったように思えた。
抽象的で、壮大で、馬鹿馬鹿しいくらいの夢。
あんなに夢見ていたのに、大人になるにつれて目が覚めるようにその輪郭は急速に薄れて曖昧になっていく。
ただ、それは完全に忘れ去られたわけじゃないんだ。
小さな小さな断片になって、俺の魂に溶け込んで。
俺が傷つき壊れそうになった時、儚く散ったと思い込んでいた夢の断片が俺を救うピースになる。
ピコン。
画面に爽やかな水色のアイコンが現れる。
「おす、作業中?」
「うん。あ、これ聞こうと思ってたんだけどさ…」
ひとりぼっちだった空間に彼がやって来て、途端に笑い声が溢れてあたたかくなる。
かつて出会った日も俺たちはこうだった。
ふと画面越しに俺に語りかける親友の姿を思い描く。
ああ、いつか見たあの夢は、彼と描いた夢の断片だったのかもしれない。
"夢の断片"