⚠️見ようによっては兄妹恋愛要素を含みます⚠️
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「𓏸は世界で1番かわいいね。」
そう言って笑った兄の顔が、私の1番最初の記憶だ。
しんしんと窓の外では純白の花びらが舞っている。
美しいと思うけれどこの寒さだけはどうにも許容できないから、早く春になってほしい。
「𓏸、そろそろ飯できるから座ってな。」
「はーい。」
カーテンと窓の隙間から顔を引っこ抜いてダイニングテーブルにつく。
キッチンを動きまわる6個上の兄の背中を見つめる。
兄はいつだって、私にだけ特別甘い。
私が生まれた時から兄は私だけのヒーローだった。
その「だけ」が崩れはじめたのはいつからだったか。
会社の同僚と笑い合った時の笑顔を、私は知らない。
いつも私に見せるのは私が愛おしくて仕方がないというような、溶けかけのチョコレートみたいな笑顔だから。
兄が好きな食べものを、私は知らない。
いつも兄が選ぶのは私が好きなもので。俺もこれが好き、一緒に食べればなんだって美味しいと言うから。
兄が苦手なことを、私は知らない。
いつも私の目に映る兄は完璧だ。その裏にどれほどの努力があるのか、私には想像もつかないくらいに。わたしには弱いところなんて見せてくれないから。
昔から兄の1番は私だった。
私だけが特別で、私だけが兄の世界の中心だった。
それが嬉しくて、誇らしかった。
完璧な兄の唯一の宝物として愛されるのはこれ以上ないくらいに幸せだった。
そうして何年か経って、兄にも夢ができた。
大切な人もできた。兄の宝物は沢山増えた。
それはたしかに喜ぶべきことなのに、私は上手く笑えなかった。
ずっとずっと、心の奥が冷えてじんわりと痛い。
霜焼けになっても温めてもらえない、心の1番奥の方。
窓の外は純白に覆われていく。
私の心も純黒に染まっていく。
「もしかしてお腹空いてない?箸止まってる。」
「…あ、ごめん。ちょっと考えごと。」
「なんか困ったこととかあったら絶対言えよ?俺が何とかするから。」
「うん、ありがとう。」
こんな汚いものには蓋をするべきだ。
兄を困らせるに決まっている。
兄には幸せでいてほしい。
この気持ちは嘘じゃない。
だけど、もう少しだけ甘えさせて。
この汚いものがいっぱいになるまで。
溢れそうになったら遠くに捨ててくるから、それまで。
寂しいよ、お兄ちゃん。
あのね。大好きだよ。
"降り積もる想い"
リボンってかわいい。
身につけるだけで私もプリンセスみたいに可愛くなれる気がするから。
リボンって素敵。
手繰り寄せればきっと運命の王子様に出逢えるんだって思わせてくれるから。
リボンって怖い。
遥か昔の夢と今の私を固く結びつけて、体にぐるぐる巻きついて、絡まって解けなくなったから。
予想通りリボンに引っかかって無様に転んだ私は上手いこと立ち上がれなくて、ごろりと床に寝転んだまま何年も過ごしている。
動けば動くほどに絡まるから、何もできない。
なんで解けねぇんだよ、これ。
もういいや、一生このままでいいや。
可哀想に。私は這いずってiPhone16を手に取った。
iPhone17出るの早くない?
この型落ち16、買ったばっかりなんですけど。
もはやミイラのようにぐるぐる巻きになっている左腕でスマホを耳に当て。
「お忙しいところ失礼いたします。」
「私、バイトやめます。」
"時を結ぶリボン"
手のひらの贈り物
心の奥底には箱があって、私のいらないものは大抵そこに入っている。
たまにその箱の中から汚ねぇゴミどもを引きずり出しては自分を苦しめるのだ。
これは病んでるとかそういうことじゃない。
ただの趣味だ。
こう書くと非常に変態チックだが、これがまた面白い。
今からまたやるつもりだから、見学していきなよ。
まずぱかりと蓋を開ける。
お風呂とか、寝る前のベッドの中とか、そういうなんにも考えない場所が好ましい。
騒々しい場所だと蓋が開けにくいんだ。
私はアイデンティティなんてものがなくて、親不孝者で、
怠惰で、気持ちの悪い劣等人間だ。
これは紛れもない事実。
箱の上の部分に入っていていつも一番最初に出てくる。
よくある自己認識のまとめみたいなやつだ。
こんなのはわかりきっているので横に置いといてもう1個引っ張りだす。
誰も私を愛さない。愛される資格なんてない。
人を愛すことも出来ない。生きてる価値がない。
これもよく出てくるやつ。常連さんみたいなもの。
こうやってひとつひとつ取り出していくんだ。
それからじっくりと出てきたものを鑑定する。
そうするとすごく苦しくなれるんだ。
大人になるって難しい。年相応になれない。
こどもっぽくて馬鹿な人間。
これは最近の掘り出し物。
成人して大人としての責任を説かれる度にこいつは箱の底から浮上してくるからタイミングが合えば見つけやすい。
まあいわゆるレア個体だ。
年不相応な人間は叩かれる。SNSではなおさら。
フリルたっぷりの服を着れば、「フリルさん」なんてあだ名をつけられてくすくす笑われる。
好きなものを隠して生きていくのも処世術の一種か。
こうやって自分の脆いところを徹底的に痛めつけて、いかに自分が社会にとっての害悪か見せつけてやる。
そうすると自然と自分が欲している何かを見つけることがあるのだ。
失くしたと思っていたジグソーパズルのピースが本と本の間から出てくるみたいに。
まじでなんであんなところに挟まってたんだ?
とにかく、必要なものがわかったらそれを回収する。
まだ痛めつけたりないと思ったら続けていいし、飽きたらもっかい出したものを詰め直す。
私は大概1個見つけたらそこで飽きてやめる。
ちゃんと後片付けもするんだぞ。
詰め直したゴミどもをぽんぽんと軽く叩いてやってぱたりと蓋を閉める。
これでおしまい。
見つけたものはちゃんと目立つところに飾っておく。
誰かがそれを与えてくれるかもしれないから。
"心の片隅で"