今から少し昔の話
悲劇の歴史女王は
日記をつけていたという
あの日記どこへ行ったのかしら
牢屋に繋がれた女王は
あれはわたしのプライベートだからと
恥ずかしそうに言う
実らなかった初恋
結婚する時のとまどい
夫を戦地へ送る心細さ
飢饉の時の粗末な食事
子供の成長
刺繍の模様デザインなど…
どれもたわいのない日々のことなの
あの日記が人に知られたらと思うと
それだけが心残りよ
侍女は言う
奥様大丈夫ですわ
ごく平凡な内容だったので
誰にも気にされず
わたしの日記として
娘が持ち出しました
あぁ、良かった
強いわたしの心の中は
ささやかな夢を見ている
弱い女だったとは
知られたくなかったの
家族を愛してただ生きていた
そんなわたしを閉じ込めた
日記のことは秘密よ
今から少し昔
悲劇の歴史女王は
女王らしく凛として死んだと言う
お城の侍女の日記は同じ頃
村の片隅で火にくべられた
日記は女王と共に天国に昇っていった
現在…お城には何重にも鍵のかかった
立派な本があり、それはこの国の宝
かつての女王の日記だと伝えられている
俺は日記を見たことあるんだよ
稀代の怪盗は声をひそめ
恋人に打ち明ける
あの日記を盗んでやろうと
思ったんだけどさ
あの日記は偽物の白紙だったんだ
盗む価値などなかったんだ
だから俺は前以上にガチガチに鍵をかけて
とんずらしたよ
何百年か後
中身だけ盗んだ怪盗がいたなんて
噂になるかもしれない
そうなったら愉快だろ?
空の上
のんびりと庭を歩く娘がいた
最近、役割を終えてここに来たと
清々しく笑った
日記に綴られていた平凡な娘だ
やわらかな陽射しと
はためく洗濯物
彼女の名を呼ぶ声がして
幸福な想いに溢れそうになりながら
娘は振り返る
風が吹いて
ベランダのテーブルに置いた
日記帳の
白いページがめくられてゆく
(テーマ「閉ざされた日記」
ミニストーリーを考えてみました)
その冬
わたしはたくさん暇つぶしをした
こたつに入って
パズルを延々と組み立ててみたり
おとなのぬり絵を
そりゃもう丁寧にぬりはじめたり
(30分すると飽きる)
ドイツ語なども無意味に覚えてみたりした
外では木枯らしがビュービューと
脅すように吹いていたけれど
わたしは安全なところで
本当はやらなければいけないことを
全部無視して
だらだらと過ごしていた
そうして春になるまで
冬眠するように
冬を過ごした
それはあなたと別れた冬
わたしは少し未来を見失って
途方に暮れたけど
いい大人だから
あなたの相手はわたしではないと
納得もした
だけど少し世界を止めて
冬の中に閉じこもりたくなったんだ
本当は最後の日
みかんを投げつけて
全部投げつけてやろうかと思ったの
何ふざけたこと言ってんのと
でも、みかんが潰れたら
なんだかやだな…と
どこか冷静なつまんない
わたしだったから
「わかった」と応えただけ
木枯らしがせめて
あなたに冷たく吹けばいい
わたしはこたつにくるまって
しばらくは
青春の無駄づかいのように
暇つぶしを続けるだろう
(テーマ 木枯らし)
ベーコンの油で
マッシュルームと玉ねぎを炒める
玉ねぎは透き通るまで炒めて
元気が出るにんじんと
ほっこりじゃがいも
ブロッコリーを加えたら
煮込んでゆきます
コトコト コトコト
野菜たっぷりスープ
ちょっと落ち込んでた
風邪ひきの心に効くように
栄養たっぷり
お腹から暖まろう
そうきっと大切なのは
丁寧で美味しいこと
自分にかける小さな魔法
色とりどりの食材が
身体の隅々まで行き渡れば
明日は少し元気になるよ
(テーマ 色とりどり)
午後の陽射しの中
街をゆく影絵のわたし
花の影は色もないのに
うっすらと色づいていて
いつか見た夢のよう
樹の下を歩けば
影の隙間から
木洩れ日が落ちてきて
髪に肩にひらひらと
後から後から
光のかけらが降り注ぐ
スローモーションで過ぎてゆく
ほんのひと時
光と影の中を歩く
こんなに綺麗な世界に住んでいる
娘たちは糸を紡ぎながら
歌を歌う
昨日見た夢 教えておくれ
それはわたしの歌になる
糸になる
あの海の波のきらめきも
砂に書いたあの人の名前も
失ってしまった約束も
あぁ、それは眩しい光
金色の糸にして
紡いでゆきましょう
糸車は軋みながら
想い出全て巻き取ってゆく
なおも娘たちは歌うだろう
いつか見た夢 教えておくれ
それはわたしの歌になる
糸になる
あの人の瞳に映っていた私も
振り向いた空も
飛び立った小鳥も
あぁ、それは青い記憶
青い糸にして
紡いでゆきましょう
糸車は軋みながら
運命さえも巻き取って
歌いながら 泣きながら
娘たちは美しい夢を
紡いでゆくよ
(テーマ 君が紡ぐ歌)