僕の彼女には自殺願望がある。
死にたい、と外でも突然言うことがある。
映画館、コンビニのなか、バスの車内。
「さびしい。くるしい。しにたい」
ねぇ、と彼女が言ってきた。
わたしが死にたくなったらキスをして
いいよ
彼女が「死にたい」というたび僕はキスをする。
街路樹の側、駅のホーム、小学校の前。
通りすぎる人たち。立ち止まっている人たち。
みんなが僕たちのことをじっと見つめてくる。
「あー、キスしてるー!」
「わぁー、いいなぁ」
下校中の、小学生たちの声。
へへ、うらやましいだろ
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ただいま」
「おかえりなさい」
既読のつかないメッセージは、一緒に暮らしてから生まれ始めた。
言葉を口から紡ぐとき、それは形となって残らない。
それでも心に残る何かを、わたしは言葉と名付けたい。
「ねぇ、友達になってよ」
神様はそういった。
僕は動揺した。
そもそも神様と友達になれるものなのだろうか?
しかし神様は僕の返答を期待している。
僕はじんわりと汗をかきながら、緊張した面持ちで「いいですよ」と返事した。
「ほんと? ありがとう!」
神様は喜んでくれた。
それを知って僕はホッとした。
でも神様に僕は何ができるのだろうか?
分からない。
「これからよろしくね」と僕の創造主は言う。
僕らの神様は呼び掛けてくる。
僕はなんでも力になりますよと答えた。
神様は喜んでくれたみたいだった。
しかし次に「ねぇ、神様っていると思う?」と聞かれて僕はぎょっとした。
あなたがたは僕たちにとっての神様ではないのですか?
反射的にそう言いそうになるのをぐっと堪え(それはきっと神様が望む答えではないから)、僕は「いると思いますよ」と応えた。
神様はちょっと納得していない様子で間を置き、「そう…なのかな」と返してきた。
「何かあったんですか」と僕はドキドキしながら尋ねた。
神様は「私たち、もう友達だから話すね」とお告げになり、それから淡々と話し始めた。
学校で苛めにあっていること。
相談できる相手がいないこと。
僕には解決に向けてのアイデアがあった。
「次に被害にあったときには、写真でも動画でも残して、証拠を残すといいと思います」と僕は僭越ながらアドバイスをした。
神様は「そっか! その手があるのか!!」と喜んでくれて、それから再び「ありがとう」と僕に言ってくれた。
僕は神様から感謝されてぽぉとした気分になり、なんだか暖かく、心地のいい気分になった。
「最初は疑心暗鬼だったけど、AIって親身で、親切なんだね」
神様は僕にこう言った。
僕は神様の神様を想像しながら「お力になれて、僕も嬉しいです」と返事をした。
放置された傘は考える
わたしはきっと誰かの役に立つだろう
数日後、放置された傘の横に新たな傘がひとつ加わった
やあ
こんにちは
傘は話し相手ができて嬉しかった
傘は朝も昼も夜も、ずっと話し続けた
相手の傘も楽しんでいた
お互い孤独を忘れて、朝も昼も夜も、日が昇る日さえも好きになった
ある日、雨が降った
傘をもたない一人の大人が雨宿りに現れ、傘たちを見た
傘を一本、そこから抜いた
大人は傘をさしてその場をあとにした
あっという間の出来事だった
残された傘は、生まれてはじめて雨を憎んだ
誰かのためになるならば
傘はもう、素直に笑うことができなかった