『雪明かりの夜』
寒月の光が踊る
雪明かりの夜に
雪上を一匹で
疾駆するのは
雪色のウサギ
明るい夜だ
明るい夜だ
誰もいない雪原を
飛ぶように渡って
付けた足跡になど
かまわず一目散に
行く手を阻まれず
何者にも追われず
一面の白の中に在る
真っ白なただ一匹は
幸福だとか
不幸だとか
そういう思い煩いから
遥か遠くへ駆けるのだ
じゃあ言われた通り
『祈りを捧げて』みようか
けれど
方法を知らない
祈るのと願うのは
どう違うの?
利他を偽善だと訝るお前には
永遠にわからない
祈りとは
ただ thank you って
口にするだけ
それだけなんだってことを
たぶんきっと
信じてはもらえないから
際限なく『降り積もる想い』と溢れる愛おしさ、これらはセットになっていて、その愛おしさを想いを持つ同士、お互いに与え合うことが、この感情の着地点。
なら、そういう"降り積もって溢れさせる"という流れを作れない、相手に受け取ってもらえない場合は──でも、溢れさせることの出来ない想いを必死に堰き止め、積もるものも掻いては脇へ捨て溶かそうとしたって無理で、そうこうしているうちに私は、降り積もるものは根雪へ、それでも溢れ出るものは、誰の目にも留まることのない気体へと変える術を身につけた。
私はこの片思いをこうして、熟練の技とも言える技術でもって長年続けてきたわけで、だから──。
「じゃあ。根雪から溶かせばいいってことで、なら、」
「やっ、だめ、お願いだから、ゆっくり……じゃないと決壊しちゃう、なんかおかしくなっちゃうから、」
「だーいじょうぶ。むしろ、しっかり決壊してもらわないと、こっちで受け取れないだろが」
あーあ。『♪雪がとけて川となって、山をくだり〜谷を走るぅ』なんてBGMを空耳するくらいには私、おかしくなってる……。
っていうか、なんで根雪のことなんかペラペラ話しちゃってるの? ちょこっとアルコール入れたからって、私チョロ過ぎだし、あーもう、すでにいろいろと、ドロッドロに溶けまくってて……。
「うう……両思い、コワイ……」
「え? それ、饅頭コワイってヤツ? ふーん、それならこうして、」
「ちょ……っ、待って待って、待ってー!」
それから僕は今日のお題『時を結ぶリボン』のことばかりを考えて過ごした。
ってかさー……こんなん、もはやトンチだろ? なにも思い浮かばねぇ、あーもう次のお題に切り替わるまで時間がない、時間よ止まれー、なーんて……あれ?
"時を結ぶ"は──そこに、その時点に結び目を作って、固定すること?
それってもしかして、"時間を止める"ことを意味するんじゃない?
『時を結ぶリボン』とは。
時間を止める力を持つリボンのこと、だったり?
……ってとこまで、スマホでポチポチと入力を終え、OKをポチると。
突然、「パパパパーン」という効果音が、耳に飛び込んできた。
「正解! おめでとうございます〜! 正解した方には現物を差し上げま〜す!」
どこからか聞こえてくる声にキョロキョロしていると、なんの前触れもなくハラリ、と赤いリボンが落ちてきて、僕はそれをキャッチする。
「え……ええっ?! これってそーゆーシステムだったの?」
「実はそうだったんですね〜、まー現物を差し上げられるだけのピッタリした正解は、なかなか出ないんですけどね〜。前回は『秘密の標本』のときでしたかね〜」
「マジか……」
頭が追いつかない。
てか、コイツ……この声、誰?
「じゃ、この辺で失礼します〜。この度はおめでとうございました〜」
「えっ、ちょっと?」
……と、そんなわけで。
いま、僕の手元には『時を結ぶリボン』が一本、あるのだが。
この後、これの実際の効果について記したいところであるのだが……とりあえずやってみた固結びでは効果がなかったので、どうやら蝶結びが発動条件のよう。
がしかし、僕は靴紐すら結べない──なんなら靴は全部スリップオンだし──ので、目下のところ、蝶結びを練習中。
この続報は……あー手がつりそう、もう少し時間がかかりそうです、あんまり期待しないでお待ちください!
誰もいない自習室で。突っ伏して寝ている俺の横に、いつの間にか彼女が座っていた。
顔を上げなくたってわかるくらいには、彼女の香りも気配も覚えている、それはお互いにそうで。
が、それ以上距離を縮めることが出来ない、それは俺と彼女が、ヘンなところで似たもの同士なせいだった。
「……ズルい、なあ」
寝ている俺の横で彼女は、そう独り言ち──いやそのセリフ、そっくりそのままお前に返すけどな?
お互いに、相手が決定的なことばをくれるのを待ってる、とか……先に言ったほうが負け? それって、なんのマウント?
狸寝入りを続ける俺の髪に、彼女の指が絡むのを感じる。なんとなくそれにイラついた俺は、咄嗟に彼女の手首を掴んだ。
「わ、びっくりした! 起きてたの?」
「………………」
彼女の問いを無視して、俺は彼女に向かい合うようにして起き上がった。
彼女の手は掴んだまま、その手をじっ、と見つめてみる。
あーあ、イマイチ頭が働かねぇ……ん、待てよ?
俺はいま、寝ぼけてて……例えばこんなことしたって、たぶん許されるんじゃね?
「っ! ちょ、んっ、なに?」
ぐい、と彼女の手を寄せて、その手のひらにキスをして。細く冷たい指先が驚いて引こうとするのを阻止しながら、ついばむようなキスを何度か繰り返し、そして──。
「なっなによ、なんなの、これはっ?」
「えー? えーと……なんだと思う?」
振り解いた手でバシッ、と俺の頭をはたいた彼女が、自習室を出てゆく。
チェッ、なんだよ、そんなにビビんなくたっていいじゃねーか。
俺だって、こんなふうに──誰かになにかを渡したくなったのは、これが初めてだったんだぞ?
◇
少し後で学食に行くと、自分の手のひらをぼんやりと見つめている、彼女がいて──それを見つけた俺は、思わず顔がニヤけそうになった。
フフッ、してやったり……さぁて、こっからだな?
彼女にやった『手のひらの贈り物』──その感想を俺は、どうやって問い詰めてやればいいだろう?