日々の『安心と不安』を
炊いて共に食らう
だから
家族なんだ、と。
「アンタの夢になんか、興味ないから」
聞き覚えのある、声がした。
床に膝をつく俺を、誰かが見下ろしている。
見上げても顔も表情も、『逆光』で見えない──が、俺にはそれが誰なのか、すぐにわかった。
「……だよなぁ。夢なんか……ホント、どーだっていいよな?」
いつもの悪夢から、いつもとは違う目覚め方をした俺は、独り言ちる。異動先での新しい仕事は想定していたよりも重く苦しく、俺の精神も想定外に繊細だったが故に、俺はこの悪夢を見始めた。
ああ、でも……そうだ。
俺だって、こんな悪夢には、興味なんかない。
こうして俺の悪夢に終止符を打った彼女に、俺は勢いで連絡し、そして会う約束を取り付けた。
大学時代もいまも、二人きりで会ったことなんかないにもかかわらず。
「もう先週になるんだけど、おまえが俺の夢に出て来てくれたのさぁ、マジで助かったんだわ〜。今日はおごる、なんでも頼めよ」
「……なにを言ってるのか、よくわかんないんだけど」
「だよな! まぁいいじゃん、飲もうよ」
声が……ひたすら、懐かしい。
夢の中で聞いた声と同じだ。
「で。そちら様の夢にお邪魔したとかいう私は、いったいなにをしたの?」
「いやでも、おまえ。人の夢のハナシに興味ねぇだろ?」
そうやって眉間に、思いっきりシワ寄せて、俺をにらんで──大学のときには、考えられなかったな。
「いつだかの合宿で、そんな話題になったとき。おまえ、適当なこと言ってその場から抜けてさ、俺はそれになんとなくついていって、もしかして逃げた? って訊いたら、そう言ってたじゃねーか」
その場に流されたり同調したりしないのが、ちょっとカッコよくて、憧れてたんだ。
けど俺は、彼女の視界には少しも入ってない──それが不満で、そのガキっぽいプライドを守りたかった、だから。
あの頃の俺は、彼女の側にもっと踏み込んでやろうとかを、考えなかったのだ。
「まぁ、確かに興味ないんだけど、でも今回のはさすがに」
「フッ、興味湧いた? つっても、大したことないよ? ただそっくりそのまま、『アンタの夢になんか興味ない』って言い放って、去っていっただけたから」
あーあ。嬉しくなっちゃってるよ、俺。
ふと視線が外れ、その隙に俺は、彼女の眉間に手を伸ばして、触れて──いつかサークルで見た笑顔、けれど俺に向かってじゃなかったアレが見たいんだけどなぁ、そう思いながら、シワを押し広げてみる。
「フッ」
「……?」
思わず、笑った。彼女の顔がほんのり赤いのは、酒のせいか気のせいか、なーんて──そんな都合のいい解釈をしてしまうくらい、俺はもうダメらしい。が、いまは引け。ってか不用意に触れてからいろいろ気づくとか……なぁ?
「なぁ。来週末、また誘ってもいいよな?」
「うん、いいよ」
帰り際。割と緊張して訊いたら、あっさりとOKされた。なんだこれ。ヘタレじゃない俺、すげぇ。
そうだ、こうなったら、ついでに転職してしまえばいい。こうして彼女に連絡出来た俺なら、そりゃもう、なんだってやれるはずだろ?
誰かに『こんな夢を見た』のだと始められると、つい身構えてしまう。私は人の夢になど、まったくもって興味が湧かないタチで、興味があるフリすら出来ない可愛げのないオンナだから──と、そう思っていたのだけれど。
「もう先週になるんだけど、おまえが俺の夢に出て来てくれたのさぁ、マジで助かったんだわ〜。今日はおごる、なんでも頼めよ」
呼び出され、なにも考えずにそれに応じた私に、奴は開口一番にそう言った。
それでポン、とメニューを手渡されても……いや、どうしろっていうの?
「なにを言ってるのか、よくわかんないんだけど」
「だよな! まぁいいじゃん、飲もうよ」
大学生の頃にサークル仲間として知り合った奴とは、卒業して社会人になってからも、何度も会っている。が、こんなふうに二人きり、というのは、そういえば初めてだった。
共通の友人たちの、それぞれに知っている現況を教え合い、大学時代の他愛のない思い出を話したり──それはそれで楽しいし、いいんだけど。
でも、一向に私が登場したという夢の話にならないのは、どういうことなんだろう。さすがに気になるじゃないか。
「で。そちら様の夢にお邪魔したとかいう私は、いったいなにをしたの?」
「いやでも、おまえ。人の夢のハナシに興味ねぇだろ?」
……はぁ?
自分でもわかるくらいに眉根を寄せ、奴をにらんでいると、奴が言った。
「いつだかの合宿で、そんな話題になったとき。おまえ、適当なこと言ってその場から抜けてさ、俺はそれになんとなくついていって、もしかして逃げた? って訊いたら、そう言ってたじゃねーか」
へぇ。
すっかり、覚えてない。
「まぁ、確かに興味ないんだけど、でも今回のはさすがに」
「フッ、興味湧いた? つっても、たいしたことないよ? ただそっくりそのまま、『アンタの夢になんか興味ない』って言い放って、去っていっただけたから」
なにそれ? まるで意味わからん。
私は掴んでいたジョッキに視線を落とし、すると、奴が──伸ばしてきた手で、私の眉間のシワをぐいーっと押し広げながら、「フッ」とこぼすように笑った。
……あれ?
いつの間に距離が、こんなに近かったんだ?
「でもそのおかげで、最近定番になってた悪夢を見なくなった、と、そういうわけ。……納得した? 次、なに飲む?」
私の眉間から、何事もなかったように手を離した奴は、ドリンクメニューをこちらへ広げてみせる。
ったく、納得したかどうかの返事も聞かずに、なんなのよ。悪夢の内容を訊いていいのか、わかんないじゃないか……って、いや、そうか。
奴は、つまり──人の夢に興味がない私を、ご所望なんでした。
「……生で」
「ああ、そういやおまえって、最後まで生しか飲まないヤツだったっけ」
そこからの私は、奴の夢のことに興味を失ったフリを続け──ああもう。
「なぁ。来週末、また誘ってもいいよな?」
別れ際。奴のそんな問いにまんまと、フツーに頷いてしまっていて。
この私が誰かの夢、しかも悪夢に興味を持つなんて──こんなのって、ちょっとおかしいよね?
♬デデンデンデデン──転送成功。
現在地及び現在到着時点、確認。
目標到着時点の……うん、誤差範囲内。
よーし、転送シークエンス終了、っと。
あ、いっけね、目撃者の確認! っと、問題なし。
まぁでもボクみたいな茶トラの子猫が一匹、路地裏に突如現れたくらいで、大騒ぎにはならないよねっ。
そう。どこにでもいる普通の子猫に見えるボクは、実は──遠い未来から過去であるこの時代にやって来た、ネコ型ロボット。
個体識別コードMA-M1、通称……マミ!
この首輪が小型化された『タイムマシーン』になっていて、これで体ごと転送されてきたんだ。
ちっちゃいカラダのほうが転送しやすいし、それに現地にも溶け込みやすいから、こんな子猫の姿になってるってわけ!
ボクの任務は時空を超えて、未来のある現象の原因について調査報告すること、端的に時空探偵って言ってもいいかもしれない。
えー、猫の姿でー? って思うよね?
ふふん。"見た目は子猫、頭脳は大人"……ってのはボクらを開発した会社の、調査機関への売り込み文句なんだけど、だからね、大丈夫なんだー。
それに、頭脳だけじゃなくて……っと、その前に。
先に、現地での生活拠点を、どうにかしなくっちゃだね!
あっ、ねぇねぇそこのおねーさん!
ボクと契約して、ボクの飼い主になってよ!
ちゃんと家賃払うから!
……って、言いたいとこだけど。
しゃべる猫が! なんて目立っちゃダメだからね。
にゃーん、にゃーん。
ひたすら可愛く鳴いて、鳴いて。
はい、中年夫婦に拾われましたー!
さっすがボク、小一時間で生活拠点ゲット!
二世帯住宅の大きなおうち、でも一階で夫婦の娘さんがクレープ屋さんやってるから、そっちには行かないでね、だって。
よしよし、拠点はOK!
次は、ちょっと人目につかないとこへ行って。
首輪型タイムマシーンには、もう一つの機能があって……これをステッキ型に、チェーンジ!
からの〜、メタモル機能・音声コード、入力!
「パンプルピンプル、パムポップン!」
毎回思うけど、なんだろうなーこの音声コード?
まぁ、それはさておき……ジャジャン!
子猫チャンがなんと、可愛い女の子に大変身!
設定は17歳前後、服は夫婦の娘さんのをこっそり拝借しちゃって。
この姿で、任務ための調査開始だー!
……え?
スカウトって、ボクを?
ボクの名前? えっとね、マミだよ?
って……えええ、本当に?!
……と、いうわけで。
ボクはアイドルになっちゃって、でも芸能界入りは何気に調査に都合がよかったし、お金も稼げちゃうしで、結果オーライ?
けど注意しなくちゃなのは、一日二回の充電。
充電はネコ型じゃないといけないからね。
だから拘束時間もちゃんと、短めにしてもらったし……うん、なんとかなるはず。
あーでも、こんなに目立っちゃうと、帰還したとき、めちゃくちゃ怒られそう……まーいっか。
よーし!
猫とアイドルと時空探偵の、三足のワラジ生活、これから頑張るにゃん!
女子A「『特別な夜』なんて言葉を使うキャラって、だいぶ限られてこない?」
女子B「そうなの?」
A「コホン……『(低い声)今夜は特別な夜になるだろう』」
B「権力者、悪役の幹部、それかスパダリ、かな?」
A「『特別な夜にしてあげる』」
B「スパダリだなぁ」
A「『あの特別な夜のことを忘れたのかい?』」
B「ハーレクイン的な洋物スパダリ」
A「『君との特別な夜に乾杯』」
B「ホテルのスイートもしくは豪華客船に連れ込まれてます…スパダリに」
A「ほらぁ。ね? 『特別な夜』なんて言葉、一般人は使わないって!」
B「あーまぁ文章にはするかもだけど、セリフとしては言わないかもなぁ……にしてもさぁ、読書傾向からくる例えが偏り過ぎじゃない?」
A「オッケイ、じゃあ……『(カン高い声)今夜は二人の、特別な夜にしようねっ』」
B「あー……妄想上のオンナ。ぜってーいねーよ、そんなヤツ」
A「やだ不評? いやまぁスパダリもね、妄想上のオトコなわけなんですけど」
B「あっはーい。さて、おかわり生🍺も来たことだし? こうなったら、もう……私たち二人の特別な夜に、乾杯っ!」
A「かんぱ〜い! ……ぷっはー。ってどうすんのこれ、このメンツでここから特別な夜にしないとだよ笑」
B「『(イケボ風)君がこうしてここにいてくれる、それだけで今夜は……特別な夜だ』」
A「そっちも結局スパダリじゃねーか!」