天国と地獄
「白の門と黒の門、どちらを通るか?」
門番は、それだけを口にする。
門番は、その先に何が待っているのかを知らない。
ただ仕事として淡々と訪れた者に選ばせる。
皆一様に白の門を選んで通っていく。
それが何を意味しているのか、わかっているのか。
だから
「黒の門に行きます」
そんな言葉を聞いて、少しだけ動揺したものだ。
「私は罪を犯しました。きっと、そちらの門は私を受け入れてはくれないでしょう」
決意の眼差し。
何故?
だが、自分はたかが門番。
そんなことを聞いていい存在ではないのだ。
「ならば、行くがよい」
軋む音を立てて、黒い門が開く。
その者はまっすぐと、しっかりとした足取りで門をくぐる。
「幸運があらんことを…」
聞こえないように、そっと呟く。
聞こえてしまったのか、一瞬だけ足が止まった。
だが、その者は振り返ることなく、門の向こうへと消えていった。
果たして、その先に待つものは本当に地獄なのか。
答えはきっと、門の先に行った者にしかわからない。
月に願いを
見上げる夜空に白銀の燐光。
冷え切った空気に、その光は凛と浮かび上がっていて。
見つめているうちに、吸い込まれてしまいそう。
こんな日和なら、受け入れてくれるだろうか。
ゆっくりと、前へ踏み出す。
全ての哀しみを棄てて。
ただただ美しい世界へ行きたい。
月と、ひとつになりたい。
この闇に身を投げ出して、全てを委ねる。
冷たく綺麗な光に照らされて、
私は生まれ変わりたい…
いつまでも降り止まない、雨
暗闇の中、ただただ雨音だけが鳴り続けていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
これから、どうすればいいのだろう。
濡れて冷え切った身体は、もう何も感じなくて。
もう何も、考えたくなかった。
誰かたすけて…
そう思っても、誰にも見つけてもらうことすら叶わず。
何も変わらない。
ここから、永遠に抜け出せない…
あの頃の不安だった私へ
ひとり見上げた空はどこまでも遠く、青く。
吹く風は心地良く通り抜けていく。
今だって、不安がない訳ではないけれど
ちゃんと夜は明けるし、
私は今も、生きている。