古井戸の底

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11/16/2025, 3:35:03 PM

あの後、八木橋からは朝のうちに返信が来ていた。内容は短文だった。彩子は昼休みも電話対応に追われ、LINEを返したのは退勤し、買い物を済ませた後だった。

『眠い時に電話来ると噛みまくります笑』
『今日もお仕事お疲れ様です。お忙しいのに話に付き合ってくださってありがとうございます』

雑談は一度終わらせた方が彼の負担にならないかもしれないと、感謝の文面を送った。
適当に作った夕食を口に運びながら、彩子は気晴らしにchatGPTで恋愛相談をした。

『あなたの返信は彼にとって負担になっていません。むしろ好印象です』

スマホの上に淡々と並ぶ評価文。AIに心がないのは百も承知だが、心のブレを抑えてくれた。


日付の変わる1時間半前、LINEの通知音が鳴った。八木橋からだった。

『いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます』
『僕もたまに噛むことあります。あいつ噛みよったで〜とか思われてるんだろうな…って思っちゃいます笑』
『今日は家で仕事してたんですが、やっぱり身が入らないです笑』

少しネガティブな彼らしい、軽く自虐を交えた文が返ってきた。
日常報告、男性が自分から話を広げる。恋愛指南の動画によれば、これらは会話を途切れさせたくない意思の表れ、脈ありのサインである。
在宅勤務だったから、少し余裕があったのかもしれない。

私のLINEが少しでも彼の孤独を癒せていればいいな。
彩子の頬は自然と緩んでいた。


【君を照らす月】彩子10

11/15/2025, 1:49:47 AM

12月14日、八木橋とペットカフェでまた会うことになった。具体的な時間と場所はおいおい決めることにした。
彩子としては11月末でも良かったのだが、彼はやたらと慎重だった。7日は彼の会社で飲み会があり、本調子でないまま彩子と会うのは気が引けるそうだ。
あんなに奥手だった彼からの誘いは、藤堂からのそれよりも彩子の心に響いた。

藤堂には、空いてしまった7日で希望を出した。
『空けておきます!急用が入ったらすみません』
彼もそろそろ決め時と思っているのだろうか。LINEは細々と続いているが、延期になれば次の日程を決めずにフェードアウトの可能性もある。

もし藤堂から告白を受けたとしても、彩子は14日まで答えを出さないと決めた。


【ささやかな約束】彩子7

11/13/2025, 3:29:30 PM

執筆中

【祈りの果て】

11/11/2025, 4:33:45 PM

『こんばんは。突然ですが、彩子さんは犬とか猫とか動物はお好きですか?』
唐突なLINEのメッセージ。送り主は藤堂ではなく、八木橋の方だった。
スマホを勢い良く手に取る。ぶつかったティーカップが倒れた。
どうして、今さら。
藤堂に対する不安さえなければ、八木橋からのメッセージが目に留まることもなかったのに。

【ティーカップ】彩子6

11/1/2025, 12:45:02 PM

藤堂は幼い頃に両親が離婚しており、現在は母ひとり子ひとりで暮らしているという。10歳以上年の離れた兄姉は自立し、それぞれが家庭を持っている。
「条件は悪いわな。あちらはお母さんとふたり暮らしでしょ?」
電話口から彩子の母の躊躇う声が聞こえる。
藤堂への気持ちはまだ覚めてはいない。プロフィールの結婚に対する意識の欄では2〜3年のうちにとあったが、彼がどれほど結婚を意識しているのか、彩子はまだ言質をとっていない。
彩子としては、自分は結婚などできる資格はまだないと思っている。料理は得意と言えないし、掃除や洗濯も女にしては雑である。
借りている1Kの更新が来るまでは、久方の恋愛を楽しみながら家事の腕前を上げたい。それから同棲をして、相手と同じ屋根の下で生活できるのか試したい。彼の他に同居人がいるなら尚更そうだ。

今朝はやけに寒かった。ベッドの上で毛布にくるまっていると、いつの間にか出勤の時刻まで30分を切っていた。


【凍える朝】彩子5

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