待ってて。
早朝。
僕はリュックサックを背負って歩く。
徒歩で通勤している。
途中、お弁当を買いにス−パ−に立ち寄った。
突然の、ニャー、ニャーという猫の鳴き声が駐車場から響いてきた。
猫はガリガリな痩せ細り、傷だらけだ。
どうやら、縄張り争いに負けてここに辿り着いたのだろう。
僕はス−パ−で弁当と鮭を買い、鮭を猫にあげた。
猫は鮭にがっついた。
「君は行く当てがないのか…。可哀想に…。今から仕事があるからここで待ってて、そしたら、病院に連れててやるから…」
僕は足早に職場へ向かった。
夕方。
仕事が終わりス−パ−の駐車場に戻った。
猫の姿を探すが見当たらない。
どこかに行ってしまったのか…。
待っててっと言ったのに…。
僕は諦められず、しやがんで駐車している車の下を覗いた。
すると、猫はタイヤの裏側に隠れていた。
「なんだ、そんなところにいたのか」
僕はほっとした。
猫の隙をみて首根っこを掴み、リュックサックに入れた。
呆気なく捕まえる事が出来た。
それほど衰弱していたのだ。
一ヶ月後、猫は元気になり去勢手術を終えた。
そして猫は僕の家族になった。
野良猫として、平均寿命3〜5歳の過酷で自由な生活がいいのか?
それとも、家猫として、食と住居と医療が保証された安全で不自由な生活がいいのか?
その猫に聞いてみないと分からない。
伝えたい。
僕は勉強が出来ない、運動神経も良くない、体も小さく容姿も優れてない。
親や周りからも何の才能もないと言われていた。
社会人になり就職しても、不器用なので仕事は出来ない。
挫折ばかりだ。
だが、仕事に対する姿勢は真面目だったので、人一倍の努力と経験で克服した。
派遣社員時代は「リ−ダ−をやらないか」と言われたし、今では職場で頼られる存在だ。
日々、質素倹約に努めているので老後は安心だ。
独身の強みである。
だから今が一番幸せなのかもしれない。
ただ、オジサンなので恋愛が出来ないのが寂しい。
中学生時代に、今の僕なら楽しい青春を過ごせたと思う。
伝えたいことは、人間なにか才能がある。
不器用でも人の3倍努力すれば大抵の事は出来る。
人生なんとかなる!
だから悪い選択はしないで、もしも身の危険を感じたらその場から逃げて下さい。
人生やり直す事は出来ます。
この場所で。
僕は大手企業で派遣社員として勤務していた。
業務内容は医療品の組立てで、3交代勤務ライン作業。
製品組立てのノルマは55秒だ。
だが、機械のスピードが次第に早くなり、人員も削減されて35秒がノルマになった。
創意工夫で出来るようになったが、肉体に限界がきて両肩の肩甲骨が肉離れになった。
治療費は自己負担。
整骨院で怪我した経緯を伝えると「労災になるから別の理由を考えて下さい」と言われた。
一体、この国はどうなっているんだ!?
また、人数が少ないので作業中にトイレに行きたくなると誰かに負担がかかる。
なので、極力水分は摂らないようにした。
そんな環境なので人間関係も悪い。
給料も下がる一方。
自分で部屋を借りれば家賃4万円なのに派遣会社に6万円支払ってた。
思い切って今の仕事に転職して正解だった。
正直、正社員になれるとは思わなかった。
収入も上がった。
仕事は一人なので人間関係の煩わしさは解消された。
トイレも好きな時に行けるし、疲れたら休憩できる。
この場所で仕事できて良かった。
今の勤務先も課題が多いが相応しいテ−マの時に語ります。
誰もがみんな。
僕は児童養護施設の職員として勤務している。
入所して初めて担当した尚弥が18歳になった。明日いよいよ退所する。
「尚弥君、工場に就職が決まったんだね。おめでとう!」
僕は祝福した。
「ありがとう!嬉しいんだけど…。正直、不安なんだ…」
尚弥は心境を吐露した。
「どういったところが?」
「普通の人なら失敗しても親に守ってもらえるけど、僕には後ろ楯がない。社会に出たら部屋も借りて自分で生活しなければならないし…」
「誰もがみんな不安なんだよ。大丈夫!人生なんとかなるよ。困った事があれば遠慮なく、電話して来なさい。相談に乗るから」
「本当!!もしもの時はお金を貸してもらえるかな?」
「いいよ!でも借用書にサインしてもらうよ」
「う−ん、それはやめとこうかな…。怖いな…」
「とにかく真面目に頑張れば人生なんとかなるよ。自分を信じろ!」
「分かったよ!とにかく頑張るよ。ありがとう」
こうして一人の若者が巣立った。
花束
「星野さん、退職するんだって!しかも寿退社!」
僕はその一報を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
彼女と僕は同じ会社の同期だ。
星野さんの優しい笑顔に、気がつけば心が奪われていた。
彼女の心を射止めようと色々と努力したが、彼氏の存在に愕然とした。
二人の破局を待っていた矢先の出来事だ。
残念だが、これはもう運命を受け入れるしかない。
僕は星野さんの出社最後の日、その帰り道を密かに待っていた。
「星野さん、お疲れ様」
僕は挨拶した。
「あら、風雪君じゃない!お疲れ様。今日で退職するの」
星野さんは笑顔で言った。
「結婚するんだってね。聞いたよ。おめでとう!いつまでもお幸せに…。これプレゼント!」
僕は隠していた花束を差し出した。
「わぁ!ありがとう!うん、幸せになるわ!」
星野さんは笑顔で受け取った。
僕は結婚式には呼ばれてない。
だから、これでお別れ。
星野さんの彼氏の顔も名前も知る事はない。
今日でひと区切りがついた。
お互いに明日から新しい道を踏み出す。