つい数日前までは夏の暑さを感じていた。
ようやく秋の風を感じていたと思っていたんだけれどな……。
「寒いー!!」
恋人が空気の入れ替えのために窓を開けると、あまりの外気の寒さにピシャリと扉を閉めて叫んでいた。
「秋、どこ行っんでしょうか……」
しょんぼりした表情は、動物だったら耳がぺしょりとタレ落ちたみたい。
「過ごしやすい季節だからねぇ」
俺は彼女の手を取って指を絡める。彼女は驚きつつ俺を見つめてくれた。
「こうやって手を繋いでも暑くないからね」
少し目を丸くするけれど、満面の笑みを向けてくれる。
「そうですね!」
きゅっと俺の手を握り返してくれた。
おわり
五二四、秋風
俺には気になる人がいる。
怪我をしたのをきっかけに出会った彼女で、見た目通りにおっちょこちょいだからしょっちゅう病院に来ていてさ。俺が当直のタイミングで来るから顔を覚えちゃったんだ。
自然と挨拶するようになったし、本当によく怪我してくるから心配になって彼女を追うようになっていた。
そして、少しづつ強くなって行く彼女を見守ることになる。怪我も減って病院に来なくなり、この都市にも慣れて友達が増えていく彼女に寂しさを覚えたんだ。
俺が、見守っていたのに……。
心の中に寂しさと一緒にトゲのようなものが抜けなくて、ずっと引っかかる。
それは何かに落ちる予感をさせていた。
おわり
五二三、予感
少し、気になる人がいる。
怪我をした時に助けてくれて、その時に優しくしてくれた。
その後も怪我をして病院に行くと、挨拶から気軽に声をかけてくれてから、私用で会っても挨拶から話せる人になった。
私の職場にも来てくれて、少しずつ〝医者と患者〟から〝友達〟になっていけていると思ってる。
でもね。
私はもう少しだけあなたに近づきたい……です。
おわり
五二二、friends
機嫌がいい時は無意識に鼻歌を歌ってしまう。それは俺だけじゃなくて恋人もそうだった。
キッチンから恋人の楽しそうな歌声が聞こえる。
あまり歌は得意じゃないと言っていたのに、リズミカルに歌う彼女の声は自然と俺も嬉しくなってしまう。
上手かどうか、というより。彼女の歌声と言うだけで十分幸せを感じる。
そしてお腹を空かせるかぐわしい匂いに鼻も誘われてしまう。
この匂いは、俺の好物の匂いだ。
それで彼女の機嫌がいい理由が分かる。
今日も俺は幸せです。
おわり
五二一、君が紡ぐ歌
夜の街に恋人と歩いていると湿度が高くなったのか、空気がぼんやりとしていた。柔らかい光が街中に灯って幻想的だった。
「きれいですねぇ」
ジメッとしていたけれど、俺はつい彼女の手を取って彼女に視線を送る。
「いや?」
少しだけ不安になってそう彼女に聞くと、柔らかい笑顔を向けてくれた。
「嬉しいです」
キュッと手を握り返してくれる。眉を八の字にさせて照れた顔はすごく愛らしくて、胸が暖かくなった。
すぐ霧は晴れてしまうかもしれないけれど、彼女との時間が続けばいい、そんなふうに思った。
おわり
五二〇、光と霧の狭間