【またね】
「またね」
それが君の最後の言葉だった。
明日から夏休みだね、なんて。
浮かれた気分で通学路を歩いていた。
僕は朝顔とか工作とかで荷物がいっぱいで。
君はランドセルだけを背負っていた。
突き当たりで僕らは別れた。
僕は左で君は右。
そのあと君はトラックでひかれて。
病院に運ばれて助からなくて。
もう二度と、会えなくて。
「そんなことないよ」
君の声がした。
姿は見えないけど、君の声がした。
「こっち」
そう言われて追いかけて、僕の目の前にトラックが。
【泡になりたい】
人間を殺すように。
そう渡された短刀が重い。
魔法の薬のおかげで。
人魚から人間になれたのに。
最初の仕事が殺人だなんて。
「人間は多くの魚を殺した」
長老たちの言いたいことはわかるけど。
あたしはあたしだし。
好きな人を殺すくらいなら。
あたしは泡になりたい。
【ただいま、夏】
数年ぶりに帰国した。
仕事が忙しく帰る機会を失っていた。
ビデオ通話で顔を見て話せるから必要もなかった。
「墓参りくらい」
母に言われて今年は仕方なく帰ってきた。
毎年最高気温を更新している日本もやはり暑かった。
纏わりつく湿度に汗が垂れる。
空から降るような蝉の鳴き声に暑さが増す。
けれど、懐かしさもあった。
四季がない国でずっと過ごしていたから。
「ただいま、夏」
【ぬるい炭酸と無口な君】
夏の放課後と校舎裏。
溶けそうな暑さと蝉の声。
ぬるい炭酸と無口な君。
「これが三題噺のお題?」
「そう」
「三つじゃなくない? と、を入れるのはズル」
「でも書けるようになりたいんでしょ」
友人は、にやっと笑って原稿用紙をあたしに渡す。
幽霊部員でもいいから部活に入ってと頼まれて。
のらりくらりと過ごしていたら。
文化祭の文集に載せる作品を書けだなんて。
仕方なく、あたしはペンを握る。
「むかしむかしあるところに……」
【波にさらわれた手紙】
「××島、助けて」
破られた紙に、赤黒い文字。
瓶に入っていた手紙にはそう書かれていた。
××島。
この浜辺にもっとも近い無人島。
近いといっても泳いで渡れる距離ではない。
船の往来もないと聞く。
「どうしたの?」
浜辺にいた恋人が聞いてくる。
俺はなんでもないと笑った。
そして手に持ったものを海に投げる。
波にさらわれた手紙は、形を無くす。
運が良かった。
あいつの手紙を拾えたのだから。
せっかく無人島に閉じ込めたのに。
助かったら意味がない。
生きているかぎり、反省し続けろ。
お前の罪を。