【静寂の中心で】
静寂の中心で、君は何を想う?
車の音も信号機の音も人の生きている音も。
それどころか。
鳥の声も木々のざわめく音さえもない世界で。
君はいったい何を想う?
私を。
いや、私たちを殺して。
君はいったい。
「うるさいなぁ」
君は言うと、見えないはずなのに私を見た。
「大丈夫だよ、地球は僕らが有効的に使うから」
宇宙人の君はそう言って、笑った。
【燃える葉】
「真っ赤だね、まるで燃えてるみたい」
「燃える葉? 山火事ということですか?」
「……そういうことじゃなくて」
ロボットとの会話は難しい。
なにを考えているのかさっぱりわからない。
なんで葉を燃えてるみたいと言ったのか。
なんで山火事ということではないのか。
「紅葉っていいよね」
ロボットの彼女は言う。
人間の私には紅葉のよさがちっともわからない。
自然現象にどうしてそこまで思いを馳せるのか。
今日も私はロボットとともに。
【moonlight】
moonlight。
月明かりのこと。
moonwalk。
月面歩行のこと。
moonbeam。
月の光のこと。
「そんなに月のことばかり調べてどうしたの?」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと図書館の先生がこちらを見ていた。
「気になったから」
「気になる?」
「うん、月ってものがどんなものか」
だって、この世界に月はないから。
【今日だけ許して】
今日だけ許して。
ここにいること。
今日だけ許して。
目に触れること。
今日だけ許して。
物語を書くこと。
今日だけ許して。
言葉を残すこと。
明日からは。
良い子にするから。
【時計の針が重なって】
時計の針が重なって、鐘の音がなる。
ゴーン、ゴーン……。
その低音は街に響き渡り、私を元の姿に変えていく。
せっかく魔法でお姫様にしてもらったのに。
そう思いながらも私は笑う。
階段にガラスの靴を置いてきたから。
きっと王子様は見つけてくれるはず。
ガラスの靴を履ける私のことを。
……それからどれだけ待っても王子様は来なかった。
当たり前だった。
だってガラスの靴もまた魔法でできているのだから。