踊り場

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10/7/2025, 3:28:18 PM

静寂の中心で

明るい夜の街。
飲み屋はいつもに増して賑わっている。
そうか、今日は金曜日。
最近仕事が忙しいので、1週間が早く感じる。
今日も残業で、気がつけばもう22時を回っていた。
店の灯りたちを横目に、家路を急ぐ。
この飲み屋街を抜けた先にある橋の向こうは、閑静な住宅街へと続いている。
夜も遅いため、辺りはしんと静まり返っている。
まるで別世界に来たかのような感覚に襲われる。
外からのノイズがなくなると、たちまち私の思考が働き始める。

この休日は何をして過ごそう。久々に家族で遠出でもするか。行き先はどこがいいかな。いや、家でゆっくりするのもありだな。本を読むのもいい。いっそのことずっと寝ているのも大いにありだ。でもそれだと妻は怒るだろうな…。

自分の顔がにんまりしていることに気づき、慌てて表情を戻す。
静寂は、心の声だ。
今日も私の脳内は、飲み屋に劣らぬほど喧しい。

10/6/2025, 3:36:49 PM

燃える葉

園児たちが火を囲んで、まだかまだかと騒いでいる。
「おいしく焼けるといいね」
私ははしゃぐ園児たちに笑顔で話しかけた。
今日は、毎年恒例の焼き芋大会。
枯葉をかき集めて火をおこし、アルミに包んださつまいもを焼いて、みんなで食べる。
紅葉が終わり、いよいよ冬がくるぞ、という時期に開催されるこの大会。
私はどうしてもこの季節を好きになれない。
寒がりだから冬は嫌いだし、日が暮れるのも早くなるし、なんだか全てが終わっていくような気がして、とても寂しく、虚しい気持ちになる。
つい最近まで黄や赤で彩られていた山々も、気がつけばすっかり色が抜け落ちてしまっていた。
今目の前で燃えている枯葉も、この間までは、自分の命を目一杯輝かせ、「私は一生懸命生きています」と、それぞれが生きることに全うし、鮮やかな黄や赤の光を放ち、私たちに感動を与えてくれていたんだなと思うと、なんだかありがたいような、尊いような、そんな気持ちが込み上げてきて、涙が出そうになる。
「先生、お芋焼けたよ」
そんなことを考えていると、あっという間に焼き芋は出来上がってしまったらしい。
我に返った私ははっとして、「ありがとう」と笑顔で受け取る。
そして、目の前の真っ黒焦げになった枯葉にも「ありがとう」と心の中でつぶやいた。
この葉たちのように、私も誰かを元気づけられるような、感動させられるような、そんな存在になる。心の中で静かに誓った。

これから私の嫌いな冬がくる。でも、冬にしかない良さも、きっとある。大丈夫。
一年後の私は、どんなふうになっているだろう。
きっと、自分の命を最大限に輝かせ、その輝きで誰かを救える存在になっていると思う。一年後に実現できなくとも、いつかは必ずそうなっていると信じたい。

来年の紅葉を楽しみに、私はあつあつの焼き芋にかぶりつく。