手のひらに乗っかるハムスターが、
手のひらの上でナッツを食べて、
ぷくぷく、ぷくぷく。感想を述べるおはなし。
最近最近の都内某所、某アパートの一室に、
藤森という雪国出身者がぼっちで住んでおって、
だいたい3年ほど前から、
部屋に不思議な動物だの別世界から仕事に来ている人だのが、訪問してくるようになりまして。
一番最初は近所の稲荷神社の餅売り子狐が。
その子狐が友達を連れてきて子狸、子猫等々。
それから別世界で管理局に勤めるドラゴンや、
そのドラゴンの飼い主(????)、
管理局勤務のハムスターまで。
しゃーないのです。 そういうおはなしなのです。
メタいハナシをすると、ここまで続いてきた千の物語、千のお題の積み重ねによって、
藤森の部屋が藤森食堂と化してしまったのです。
細かいことを気にしてはなりません。
で、そんな藤森のアパートに、その日、どこからともなく出現したのがハムスター。
「藤森!ふじもりッ!来たよ!」
プププププ!ぷくぷくぷく!チューチュー!!
興奮して鳴くハムスターです。管理局から貸与されたビジネスネームを、カナリアといいます。
ハムスターなのにカナリアとは不思議ですね。
「ふじもり!早く、はやく、例のブツを!」
プクプク!ちちち、チューチュー!
とっとこカナリア、藤森がデパ地下のクリスマス福引きで、プレミアムでラグジュアリーな高級ミックスナッツをゲットしたと聞きまして、
本能まっしぐら、秒で馳せ参じたのです。
カナリアは藤森の、日頃の低糖質低塩分なミックスナッツのチョイスは信頼しておったのですが、
なんてったって今回は、ラグジュアリーです。
丁寧に手摘みされ、丁寧にローストされ、最高品質の甘味やら塩味やら、プレーンやらのナッツです。
桐箱に入って1箱お値段四捨五入の5桁。
とんでもねぇ値段なのです。
「藤森!」
とっとこカナリアがトトトトト!
猫も真っ青の爆速神速、豪速で藤森に突撃して、
健気に藤森のズボンをよじ登ろうとしましたので、
藤森は大きなため息ひとつ吐いて、じゃらっ。
手のひらに高級ナッツミックスをのせて、
その上にカナリアを、のせてやりました。
「はぁッ!これが、最高級ミックスナッツ」
手のひらの贈り物です。 お題回収です。
カナリアは藤森の手のひらの上で、まず、ほどよくローストされたアーモンドをひと粒。
両手で掴んで、体いっぱいに香りを吸い込みます。
「なんてフレッシュな香りだろう!」
プププ、ぷくぷく、ぷぷぷぷ、プクプクプク!
藤森のチベットスナギツネなため息も気にせず、
とっとこカナリア、藤森の手のひらの上で、藤森の手のひらに盛られた贈り物を、カリカリカリ!
存分に、それはそれは存分に、堪能しました。
「素晴らしい、素晴らしい! はぁはぁ!
見てごらんよ藤森、このカシューナッツ!このマカダミアナッツ!なんて大きくて、良い香り」
「あの。カナリアさん」
「なんだい藤森。お代なら、後でちゃんと払うよ」
「そうじゃなくて。どうやって知ったんだ。
私が後輩の高葉井に、ナッツが当たったとメッセージを流して、あなたは秒で来た」
「だって僕その高葉井と一緒に居たもん」
「はぁ。 ……は?」
「その高葉井と一緒に居たもん」
「は??」
「ねぇ藤森ナッツおかわり」
「はぁ……」
チーチー!ちゅーちゅー!
プレシャス高級ロイヤルナッツのラグジュアリーでガンギマリのカナリアです。
藤森が最初にカナリアのために用意した、手のひらの贈り物、手のひらのナッツは、もう枯渇。
「頬袋が随分と、その、」
「大丈夫まだ入る」
「無理しない方が」
「おかわり」
はぁ。 藤森はその日何度目かのため息を、長く小さく、吐きましたとさ。
12/20/2025, 4:32:56 AM