痛みはもう感じない
そして体はやたら軽く
遠い鐘の音が響いて、俺を呼んでいるようだ
これはヤバい
天国が俺を引き寄せているのだろう
お前の命は尽きるから、もう来いと
けど
俺は死ぬわけにはいかない
天に召されてる場合ではないんだよ
地獄へも行かない
地獄送りにされる謂れはないからな
転生?
早すぎる
生まれ変わるには時期尚早だ
だってそうだろう?
俺の旅はまだ終わっちゃいない
いや、まだ始まったかどうかさえ疑わしい
勇者様に仲間にお誘いいただき、故郷を出た翌日にモンスターに致命傷を負わされたのだ
誰だって納得できるわけがないだろう?
こんな状況
俺は納得できない
ただ、この状況を切り抜けて蘇生するには、何か代償が必要だ
鐘の音はだんだん大きなってくる
時間はあまり残されていないな
さて、支払う代償だが
俺は魔道士だ
ならば、魔法を捧げよう
魔道士が魔法を失う
それは相応の代償と言えるはず
大丈夫
俺は魔法だけが武器ではない
勇者様には黙っていたが、俺には生まれつき特殊な力が備わっている
明らかに魔法とは違う原理で発動する能力
例えば、詠唱も杖もなく、念じると離れた所にあるものを自在に動かせたり
また、相手の体に遠くから圧や負荷をかけたり
俺はこれを、超能力と読んでいる
周りに話すと気味悪がられそうだったから、隠してきたけど
彼とその仲間たちなら、きっと俺の超能力を受け入れてくれるだろう
だから、俺は生き返るために魔法を手放す
超能力で勇者様のお役に立つのだ
正直、魔法より超能力のほうが得意で強いし
俺の体から魔力が抜けるのを感じる
感じなくなっていた痛みがだんだん強くなる
体の重みもあり、鐘の音は遠ざかっていった
意識を取り戻すと、勇者様たちが心底安堵した、という表情をしていた
よかった
俺は無事、蘇ることができたのか
今度こそ、旅を始めることができそうだ
12/13/2025, 11:50:18 AM