死後行き着く場所にて
「僕らの命の終わりって、もう少し派手なものだと思ってたんですよ」
彼は不服そうに呟いた
「あんな静かな終わりだなんて、納得いきませんよ」
確かに、彼の複数の仲間は派手に息絶えている
ここへ来た時も、殺されたわりには自慢気にしていたのが印象的だ
そんな仲間たちに、羨望を持っていたのだろう
彼は本当に残念そうだった
「本来の目的を達成できないとわかってから、逃げつつも目立つ散り様を見せたかった
先に逝った仲間に誇れる死に方をしたかった……」
目的を達成できれば、それに越したことはない
それが叶わないとなり、どうせ無理ならいっそのこと、という思いがあったようだ
「ある仲間は凍りついて死に、ある仲間は大量の毒を浴びて死に、またある仲間は武器で叩かれ圧殺させられました
僕もね、そういうのがよかったんですよ」
彼の無念が痛いほど伝わってくる
私にできることはその無念を聞き続けることだけだ
「僕の死に方は……落ちてきた物の中にスポット入って、そのまま誰に見つかるでもなく餓死ですよ
地味すぎます」
最後の希望まで潰えてしまう悲しみは察するに余りある
「子孫も残せず追いやられ、冷却スプレーも殺虫剤も浴びず、新聞に叩きつけられもしない
地味ぃな事故死です
今頃僕の死体は干からびてるんじゃないですか?」
本当に、このゴキブリは可哀想だ
どうせなら来世は素晴らしい生涯を送ってほしい
私にできることは話を聞くことだけ
それがとても歯がゆい
「来世は、カブトムシがいいな」
大きく出たな
いや、そんな言いぐさはゴキブリという種に失礼か
へえ、冬休みに旅行かぁ
いいですね
奮発してグアム?
わぁ、すごい
そのためにずっと貯金してたんでしたっけ?
そういうのができる人っていいですよね
それにしても、私の周りの人たち、けっこう年末年始に旅行へ行く人多いな
まぁ、大体は国内の近場らしいですけど
普通はそんなもんですよね
計画的に貯金なんてやらないから
私?
私は旅行は行きませんね
行きたいのはやまやまなんですけど、金銭的にそこまでの余裕はなくて
余裕はないというか、他に優先したいものが多いだけですけど
そんなだから、ちょっと美味しいもの食べて終わりです
ああでも、心は旅行に行きますよ?
心の旅路を楽しむ予定です
具体的には、旅番組を見まくるんですよ
なんか今回の年末年始、そういう番組がテレビやネットで多いんです
国内も海外もガッツリ見ます
観光地だけじゃなく、そういうところから外れた街とかをやる番組もあるので、ちょっと違った楽しみもできて面白そうなんです
え?
まあ、そんなに旅番組好きなら旅にお金を回せっていうのはわかるんですけど……
正直に言ってしまいますと、準備とか、現地での移動とか手続きとか、面倒くさいんですよ
それを含めて楽しむのが旅とは思うんですけど、どうしてもハードルの高さを感じてしまって
でも、番組ならただ見ていればいいだけ!
だから旅する代わりに旅番組で癒やされるんですよ
そうですよね
気持ち、わかりますよね
誰しも少なからず持ってる気持ちですよね
でもその面倒くささを乗り越えて、むしろ楽しみながらグアムへ行ける行動力には感心しちゃいますよ
お土産話、楽しみにしてますね
……話以外のお土産も期待しちゃっていいですか?
おっ、じゃあそれも楽しみにしてます
エンジョイしてくださいね!
危険であるため、封印された魔法の鏡があった
その名を、凍てつく鏡
この鏡で自らの姿を見た者は、心が凍てつき、感情の起伏が乏しくなる
鏡に映る自分に感情を奪われると言われており、実際、鏡を見たものによると、鏡の向こうの自分は活き活きして見えたとか
感情を失えば、その人はまともに生きることは難しくなるだろう
そんな危険性の高い凍てつく鏡は、頑丈で、あらゆる手段を用いても破壊することができない
ゆえに、立入禁止の危険物が封じ込められる場所に移された
そんな中、凍てつく鏡を覗きに行く男がひとり
彼は、熱い男だった
いや、暑苦しいと言ったほうが正しいか
男は親切で優しく、いいやつと言って差し支えなかったが、鬱陶しいと思う者は確かにいた
そういう人間は知らずに恨みを買う
彼を恨むその者たちは、彼が凍てつく鏡の危険性を取り除ける、と管理組織に嘘をつき、適当な頼みごとを彼に対してでっち上げ、凍てつく鏡のもとまで送り出した
彼の感情を奪うために
男はいよいよ凍てつく鏡の前に立ち、被せてあった布を外す
男は鏡の中の自分の姿を見た
その瞬間、鏡にヒビが入る
そして、亀裂はどんどん大きくなっていく
凍てつく鏡はそのままあっけなく砕け散った
何が起きたのか
理由を説明しよう
感情を奪われるには、男の心は暑苦しすぎた
凍てつく鏡が男の感情を奪い去ろうとしたが、そのあまりの暑苦しさにキャパシティオーバーを起こしたのだ
高い心の熱量により、鏡は耐えきれなくなり結果、砕け散った
以上が、鏡に起きた出来事の全てである
戸惑う男はとにかく外に出て事情を説明
すると管理組織の者たちは歓喜しながら礼を言った
彼は何がなんだかわからなかったが、とりあえず自分が何かの役に立ったということは理解したので、ひとりひとりに握手をして笑いかける
後日、彼を嵌めようとした者たちは捕まることとなったが、男は最後まで何が起きたのかよくわかっていなかったという
積もった雪に街灯が反射して、周囲がより明るく見える、雪明かりの夜
そんな光景は、さぞキレイなことだろう
直接見たことがないからわからないけれども
なにせ生まれも育ちも現住所も雪なんて絶対に降らない地域だからな
俺は地元から出たことがない
旅行へ行ったこともない
だから雪を見たことがないんだ
俺はもともと、雪が積もった光景自体にはそこまで魅力を感じないんだよ
けど、何かで見た雪明かりの映像は、雪に興味がなかった俺の目にも素晴らしいものに見えてね
いつか見てみたいななんて思っていたわけだ
で、満を持して、初めて住んでいる地域から出た
初旅行というわけだ
しかも長めの
旅行中の期間で雪が積もるほど降る可能性が濃厚らしいから、これは期待できる
俺は手こずりながらも旅行の段取りを整え、楽しみにしながら旅行当日を待った
そしてついに旅行中、雪が積もった!
映像で見るよりキレイだ!
なんだこの幻想的な風景は
全面が輝いている
正直、昼の雪はそこまでじゃないだろうと甘く見ていたが、それは間違いだった
日の出ているうちの雪もいいものだ
これは、雪明かりも期待できる
それまで雪で遊ぼう
せっかく初めて雪の中にいるんだ
童心に帰ってはしゃぐべきだと思う
下手くそながら、公園で雪だるまを作ってみたり、気をつけながらダイブなんかもした
ひと通り楽しんだ俺は、さすがに時間を余らせたため、飲食店で時間を潰す
夜の気配が近づいてくる
日が落ちて、人通りの多い繁華街へ向かう
明かりが多いため、雪も他の場所より美しくなるのではないかと思ったのだ
結果を言おう
俺には下手なイルミネーションよりも、美しく輝いて見えた
自然と人工の融合というか
電灯と雪の芸術というか
そういった雰囲気がとても魅力的に映ったのだ
この美しさを最大限表す言葉が出てこない自分の語彙力が恨めしい
ここまで感動できるものだったなんて
俺はこの光景にかなり満足できた
このあとの何日かの旅行がだるいと思うくらいには
もうこれで帰ってもいい気分だ
だが、それも今だけだろう
このテンションのままに、残りの旅行も楽しもうと、俺は改めて思うのだった
私は聖夜に祈りを捧げている
人々が幸せであるようにと
リア充カップルどももラブラブであれと
子どもたちが夢のような時間を過ごせるようにと
ひたすらひとりで祈りを捧げている
なんでクリスマスのこんな日にそんなことをしているのかって?
決まってるでしょ
人々の幸せを、みんなが浮かれるクリスマスにひとり祈ることで素晴らしい人間アピールをするためだよ
私には一緒にクリスマスを祝うような相手はいないからね
一人たりともいないからね
家族はなんか、忙しいらしいし
友達はいないし
当然恋人とかも実在を疑いたくなるほどできたことがないし
あっ、涙出そう
だから、こうしてクリスマスの間祈ることで神様に、この人に幸福を与えてあげようと思ってもらうわけ
すべてはリア充になるために
いや、もうね
打算的だろうとなんだろうと、やるしかないのよ
リア充になるのに手段なんか選んでられませんよ、本当に
ここまで必死になれば神様も哀れんでいい人を遣わしてくれるかもしれないじゃん
友達になれる人を送り出してくれるかもしれないじゃん
ってことだから、私はただただ祈りを捧げていくよ
しょうもないとは言わせない
私は本気も本気、超絶ウルトラ本気だからね