涙は、練習すれば出せる。
まばたきを減らし、息を浅くして、可哀想なドラマの主人公の気持ちになりきる。
カメラの向こうでは「こんなに大変なのに強いね」「泣かないで」と優しい文字が流れ、同情は数字になって積み上がる。
私はその数字で出来ていた。
今夜も、父が帰ってこない。メッセージには既読もつかない。別の部屋では母がなにか大きな音を立てている。
台本はないのに、配信ボタンを押してしまう。画面に映る自分は、思ったより醜い顔で泣いていた。声が震えて、うまく喋れない。
コメントはすぐに流れた。「今日リアルだね」「設定強化?」「ちょっと暗いよ」。視聴者数が、静かに減っていく。
私が減っていく。
私はようやく知る。みんなが優しかったのは、私のためじゃない。泣ける物語のためだったのだ。
配信を切ると、部屋はただの夜に戻る。通知は鳴らない。布団の中で声を殺したとき、初めて本当の涙の味がした。
私はみんなの中からいなくなった。
『同情』
2/21/2026, 1:59:59 AM