明日にはいない人

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「小さな命」

ピカリと光って それは まばゆい尾を引いて流れた

それは 長い時間をかけて海へと落ちました

海の中で光はしぼみ その中心には白鳥のように美しい白い髪を持つ少女が現れたのです

不思議な少女を海の生き物たちは興味深く口先で突いたり ヒレで撫でてみたりしました

少女は眠ったままゆっくりと沈んでいくかと思いましたが 長いヒゲを持つ年寄りのクラゲが少女の髪を引っ張ると 「きゃあ」と悲鳴をあげて目を覚ましました

ぷくぷくと銀色の泡が少女の口からこぼれ 水で満ちた海の中でも少女の声は鈴の音のように響きました

ぱちぱちと大きな翡翠の瞳を瞬かせてから 少女は器用にくるりと体を回して辺りを見渡しました

周りには色鮮やかな小さな魚や少女と同じくらい大きな魚に 怖い顔のウミヘビや少女を起こしたクラゲが一様に少女を見つめています

「どうしてあなたたちには足がないの?」

少女が魚たちに問いかけます

魚たちはエラをパタパタと震わせて忙しくヒレや尾やヒゲを動かしました

「そうね 私の足よりあなたたちのほうがずっと泳ぐのが早そうだわ ねぇ ここで私みたいにお話しできる子はいるかしら? 私 お友達を探しにきたの」

魚たちは各々 顔を合わせて何かを伝え合っているようでした

しばらくしてウミヘビが少女の前に出てきました

少女はウミヘビの鋭い歯を見て恐ろしくなり両手をぶんぶんと振り回して「食べないで!」と声をあげました

ウミヘビは少女の横を通り抜けて 少し進んだところで振り返って尾を振りました

どうやらお友達になれそうな子を知っているようです

「あら ごめんなさい あなたのお口ってなんでも食べれそうなぐらい鋭いからびっくりしちゃったの もう怖くないわ あなたって優しいのね」

少女はウミヘビの後を追って足をぱたぱたと動かしました

小さな魚たちも一生懸命にヒレを振って少女を応援してくれます

少女は一生懸命泳ぎました けれどウミヘビとの差はどんどん開いていくばかりです

ウミヘビは時々こちらを確認して待ってくれますが 少しずつしか進めないことがもどかしいようでその場で長い体をくねらせて遊んでいました

すると 最初に少女を起こした年寄りクラゲがやってきて数本のヒゲを少女の方へ伸ばし 少女を抱き抱えるとスイスイと驚く早さでウミヘビへと追いついたのです

ウミヘビを先頭に年寄りクラゲと少女、その後をたくさんの魚たちがついていきました

どれくらい泳いだでしょう

いつの間にか後ろの魚たちはいなくなってウミヘビと年寄りクラゲと少女だけになっていました

少女は「いったいいつになったらつくのかしら もしかしたらまだまだ遠くまで行かなくちゃいけないのかしら」

と心配になってきた頃

突然 辺りが黒い絵の具を浸したように真っ黒になったのです

驚いて上を見てみると少女が100人並んだよりも大きなクジラがこちらを見ていました

ウミヘビとクラゲはクジラの前まで少女を連れて行き体をくねらせてクジラへ何か伝えているようでした

少女はきっとこの大きなクジラがお話ができるお友達に違いないとクジラに負けないぐらい大きな声で話しかけました

「はじめまして! あなたとっても大きいのね! あなたはお話ができるのかしら? 私 お友達になれる子を探しているの!」

クジラはうーんと時間を使ってから少女に返事をしました

けれどそれは言葉ではなく世界を震わせるような大きな音でした 少女の声が鈴のようなら このクジラの声は巨大なバイオリンのようにいくつもの音が重なった美しい声でした

「わあ あなた歌が歌えるのね!」

少女はその美しい歌に感動して思いつく限りの褒め言葉を言いました

けれどクジラは歌を歌えますがお話しはできないようです

少女は少し悲しくなりました 大きなクジラにお話しができる子について聞こうと深呼吸をした時 クジラがその大きなヒレを動かしました

するとクジラのヒレの影からなんと小さなクジラが顔を出したのです

「こ こんにちは」

子クジラは大きなヒレに隠れながら小さな声で少女に話しかけました 

少女はもう 嬉しくて嬉しくてたまりません

クラゲのヒゲから抜け出して めいっぱい体を動かして子クジラに近づいて子クジラのヒレを掴みました

「あなたはお話しできるのね!私 お友達を探しているの お友達になりましょう!」

子クジラは驚きながらも初めての友達に喜びました

少女と子クジラがヒレと手を繋いでくるくると踊っているのを見て大きなクジラも美しい声で歌い始めました

それから美しい歌声は 一日中 響き渡り 海の生き物はみんなその日幸福な気持ちでいっぱいになったのです

2/24/2026, 3:53:23 PM