切り裂くような冷たさも、とうの昔に感じなくなった
何も見えない暗闇の中、膝上まで積もった重たい雪をかけ分けていく
息を吸うたびに肺が痛くて咳き込んだ
体の表面はもう何も感じなくて、体の中心だけが熱く拍動している
頭が痛い 心臓が痛い
ふらふらと歩く、どうしてまだ足が動くのか、もはや分からなかった
ぐしゃりと雪に足を取られてバランスを崩した
手を出す余裕もなく 冷たい雪に全身が沈む
雪は冷たいはずなのに皮膚が焼けるように感じた
倒れ込んだまま、もう指1つ動かせなかった
閉じていくまぶたの間に見えたのは
ただただ純白の雪だけだった
すべてを覆い隠して
あとに残るは
雪明りの夜
息も白くなり始めた季節、明日か明後日には初雪が降りそうだななんて思って空を見ていると
「手出して!」
鼻と頬を赤くした君が弾けたつぼみみたいに走ってきて僕に言った
驚きつつも言われたとおりに、手袋をつけ忘れてポケットに入れていた両手を出した
「んふふ、はい!プレゼント!」
そう言って僕の手に乗せられたのはひらひらと舞う赤や黄色の紅葉だ
「もっと集めてくるね」
僕の感想を聞くこともなく軽快に走っていく君を見て思わず僕も笑ってしまった
紅葉の乗った両手はどんどんと冷えていくけれど、再びその手をポケットに入れようとは思わなかった
紅葉がこぼれないようにそっと両手を閉じて僕は君を追いかけた
君は泣きながら今日も自分を責める
誰が言うだろうか 君を貶す言葉を
誰が言うだろうか 消えろだなんて酷い言葉を
誰が言うだろうか 君に価値などないと
君が見てきた世界は 盲目で貪欲な人たちで溢れていた
そんな世界で
誰が言うだろうか 君に優しき言葉を
誰が言うだろうか 君を救う言葉を
たった一人で孤独に戦っている君に
私の言葉は届くだろうか
私の手は君を傷つけてはいないだろうか
私の心は君にとって恐ろしいものではないだろうか
君の涙を拭うことは罪ではないだろうか
いつか
君が前を見れるようになったとき
その時に君が見る景色は
どうか美しいものでありますように
その隣に私がいなくとも
砂浜の足跡
テストの花丸
目にかかる前髪
キラキラ光るシール
窓ガラスを伝う雨粒
明日の天気
吹けない口笛
底のすり減った靴
言おうと思って 口を開けて
やっぱりいいやって 口を閉じた
伝えたいことはたくさんあって
けれど 言葉にしたら単語1つで終わってしまうような
きっと それはどうでもいい話で
なんてことない事で
言うだけ無駄なのだけれど
やっぱり無駄だから 言葉にするのはやめた
タオルのしわ
自転車のペダル
昨日の電車
鏡の中の景色
つまらないなんて言われたくないから
くだらないなんて言われなければ
これらは皆 特別な宝物でいてくれる
石畳に甘いかたまり一つ
半分ほど溶けて地面にシュワシュワと吸い込まれていた
じっと見ていると
どこからともなく アリの子がやってきて
甘い宝の山を見つけた
1匹から2匹 3匹 4匹と増えていって
気付けばアリの家まで真っ黒な道ができている
甘い幸福をせっせと運ぶアリたち
炎天下の焼けるような陽射しの下で今日も働くアリたち
不満も言わず 贅沢も言わず
よくやるなあ と思う
茹だるような暑さでジワジワと鳴くセミの声が耳に響く
甘いかたまりはもうほとんど液体になっていた
ため息ひとつ
深呼吸ひとつ
さて、2つ目のアイスを買いに行くか