真坂 より道

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偶然だった。
出張先のホテルで、元カノと再会した。
実に、四年ぶりのことだった。

お互い、挨拶だけで済ませるつもりだった。
けれど、顔を合わせて話しているうちに、懐かしさがこみ上げてきて、気づけば近くの居酒屋に入っていた。

別れ方は、悪いものではなかった。
それでもふと、「なぜ、別れたんだっけ」と思ってしまうほどに、彼女は魅力的に見えた。
当時の僕には、それが見えていなかったのだろうか。

「惜しい気もするけど、別れたことに後悔はないよ」
二杯目のビールを飲みながら、花火大会のあとみたいな顔で、彼女はそう言った。

その晩、夢を見た。
彼女が、僕のホテルの部屋にやってきた。
驚いてドアを開けたが、彼女は何も話さなかった。
けれど、その顔は、言葉以上に雄弁だった。
僕は言葉にならない感覚で、彼女の気持ちを理解した。

彼女は、目を閉じていた。
僕は、なぜか部屋に置かれていた口紅を手に取った。
それは、彼女が昔よく使っていた色だった。
僕は、そっと彼女の唇に紅を塗った。
そして、彼女は何も言わず、部屋を出ていった。
記憶に、紅色だけを残して。

11/22/2025, 4:26:37 PM