偶然だった。
出張先のホテルで、元カノと再会した。
実に、四年ぶりのことだった。
お互い、挨拶だけで済ませるつもりだった。
けれど、顔を合わせて話しているうちに、懐かしさがこみ上げてきて、気づけば近くの居酒屋に入っていた。
別れ方は、悪いものではなかった。
それでもふと、「なぜ、別れたんだっけ」と思ってしまうほどに、彼女は魅力的に見えた。
当時の僕には、それが見えていなかったのだろうか。
「惜しい気もするけど、別れたことに後悔はないよ」
二杯目のビールを飲みながら、花火大会のあとみたいな顔で、彼女はそう言った。
その晩、夢を見た。
彼女が、僕のホテルの部屋にやってきた。
驚いてドアを開けたが、彼女は何も話さなかった。
けれど、その顔は、言葉以上に雄弁だった。
僕は言葉にならない感覚で、彼女の気持ちを理解した。
彼女は、目を閉じていた。
僕は、なぜか部屋に置かれていた口紅を手に取った。
それは、彼女が昔よく使っていた色だった。
僕は、そっと彼女の唇に紅を塗った。
そして、彼女は何も言わず、部屋を出ていった。
記憶に、紅色だけを残して。
夢の断片に映る自分は
どこか汚れてて
どこか醜い
ただ、どうしようもなく惹かれてしまう
夢の自分に問いかけてみる
「あなたは誰?」
夢の自分は答える
「そもそも、私って何?」
心の迷路に迷い込んだとき
近道や抜け道を探してはいけない
迷路の暗闇に目を慣らし、目印をつけ
1つ1つ丁寧に、進んでいくことが大切だ
そうすれば、そこはもう迷路ではなくなる
あなたを囲んで
みんなで泣き
みんなで思い出を語った
みんなで人生について考え
みんなで前を向いた
その瞬間
あなたは確かに希望の灯火だった
『灯火を囲んで』
冬支度っていうのは何かを足すことじゃなく
何かを捨てることだと思う。
木が葉を落とすように。
でないと、冷たく長い過酷な冬は越すことができない。