キャンドルに火をつけてやれば、たちまち甘い香りを振りまいて俺たちを包み込んだ。俺にとってはそれがあまりにも甘ったるくて、肺にべったりと張り付くみたいだった。
「俺が作ったアロマキャンドル、どう?」
自信満々にそう言う男には申し訳ないが、俺の好みではなかった。それをストレートに言うと怒るのは目に見えているので、ここはいい感じに受け流すことにする。
「いや、すげぇいいと思う。火の感じとか。」
「火の感じってなんだよ。」
ヘラヘラ笑って流されたが、本人は満足げにいろんな角度からキャンドルを眺めている。それを見てなんとなく、本当になんとなく息を吹きかけてみたら、ぱったり消えてしまった。あたりは真っ暗になって、甘い香りが白い煙になって宙に消え去る。隣に座る男からの、無言の圧を感じてスマホのライトをつけた。案の定、めちゃくちゃ睨まれていた。
「え、何してんのお前。」
「出来心で。」
「俺の努力を一瞬で吹き飛ばしやがって、てめぇ。」
「火がゆらゆらしてんの見ると、なんか不安になっちまうからさ。消したくなんだよ。」
「どんな理由だよほんとに…。」
香りが薄くなっていくのは都合が良かったが、雰囲気は険悪になって、再び俺が息をする間もなくなった。
「………でも、わかるよ。」
哀愁を帯びた声が、その空気を切り裂いた。
「いつ消えちゃうのかなって、そわそわしながら見てるの、疲れるよな。」
「わかってくれる?」
「お前を許すわけではないけど、わかるよ。」
「それでこそ俺の友達だ。」
「それは置いといてね。」
それからしばらく笑いあっているうちに、気づけばキャンドルの件はなかったことになった。
キャンドル作りなんて洒落た趣味を始めた男を笑ってたし、長続きしないことは俺にはわかってた。こいつはいつも、何でもいいから拠り所を慌ただしく探してるみたいで、俺は見ていて落ち着かない。ゆらゆら不安定にしている火を見て、どうもそれが今のお前に重なるんだ。
正直、よくない予感がしていた。蝋が甘ったるくドロドロ溶けて、その火が揺れて揺れて小さくなるのを見ていられなかった。
「お前、次何やんの?」
「次ってなんだよ、まだキャンドルやるよ。」
「楽しいか?それ。」
「お前みたいな奴にはわかんねーよ。」
「バカ言え、俺が1番わかってんだ。」
「何をだよ!」
こいつを繋ぎ止めるものが、あんな小さな火じゃ心許ない。俺がいない時に、俺がいてやれない時に、こいつを繋ぎ止めるものじゃなきゃいけないんだ。
「はやくいいもん見つけろよな。」
「だから、今はキャンドル作りやってんだよ!」
まぁ、今はそばに俺がいたら、それでいいのかもな。
12/23/2025, 4:15:40 PM