私には、不思議な友がいた
顔も知らないし、どこの誰なのかもわからない友だ
私たちをつなぐものは文通
お互いに、名前や身元につながることを書いてはならないという決まり
手紙の内容は日常のちょっとしたことだ
何が美味しかったとか、こんな面白いことがあったとか、映画を見たとか
そんな他愛もない話題
文通の始まりは、私の机の引き出しに、覚えのない手紙があったことだった
手紙には、差出人がある力によってどこかへと手紙を送ったということ
受取人が、手紙を書いて引き出しにしまえば相手への返信ができることが書いてあった
私は試しに引き出しに書いた手紙をしまった
すると、手紙は消えていたのだ
そこから文通が始まる
お互い中身だけでなく、手紙の見た目にも工夫をしたりした
私は手紙にリボンをつけたり
相手はおしゃれな切手を貼ったり
そんな封に文通を続けていく中で、お互い違和感を覚え始めた
そしてわかったのは、生きる時代が違う、という事実
この手紙は、時を超えていた
相手の時代は現代から40年前
その時私は生まれてはいない
この人は今、どこで何をしているのだろう
興味を持ったが、身元につながることは言ってはいけないルール
破れば手紙を送る力は失われるらしい
なので、私は気になる心に蓋をした
ある日、相手から来た手紙を読んだ私は、ショックを受けた
あと少しで、手紙を送れなくなるそうだ
手紙を送る力が消えかかっているのだという
私たちは最後の手紙で、お互いの身元を明かすことにした
どうせ力が消えるのなら、最後にルールを破っても問題ない、という考えだ
最後の手紙が送られてくる
そこに書いてある名前や情報を見て、私は鳥肌が立った
私が手紙のやりとりをしていたのは、私の亡くなった祖父だったのだ
そして、遠方の両親から、そのタイミングで封筒が送られてきた
生前に祖父が、今日この日に私に渡してほしいと話しており、預かっていたのだと両親に電話で告げられた
封筒には、祖父からの手紙が入っており、私が送った手紙に付けたリボンで、装飾も施されていた
この装飾が、時を結ぶリボンとなって、私の文通の相手が確かに祖父だったのだと確信させる
私は早速手紙を読んだ
手紙には、文通がとても楽しく、祖父にとって宝物だったこと、孫がかつての友だと気づいた時、とても嬉しかったこと
私が文通する頃には、自分はこの世にいないことが残念だということ
そして、私への感謝がつづられていた
涙が止まらない
私も、祖父と手紙について語り合いたかった
そして、時を超えた友として接したかった
私も、祖父への……友への感謝の気持ちでいっぱいだ
近いうちに、祖父の墓参りに行こう
手紙が届いたと、報告するために
12/20/2025, 11:50:08 AM