なんとなくのやつです( ̄ω ̄;)
光の回廊
セツナがその場所を初めて訪れたのは、黄昏が街を金色に染める頃だった。
古い聖堂の奥、誰も近づかないはずの扉が、まるで彼を待っていたかのように半ば開いていた。
扉の向こうには、光でできた長い回廊が伸びていた。
壁も、床も、天井も存在しない。ただ、淡い光の帯が幾重にも重なり、ゆっくりと脈動している。
足を踏み入れた瞬間、セツナの影は消え、代わりに胸の奥で微かな音が鳴った。
それは心臓の鼓動ではなく、もっと古く、もっと深い何かの呼び声だった。
回廊を進むたび、光は形を変え、過去の記憶が浮かび上がる。
幼い頃に失った母の笑顔。
初めて剣を握った日の震え。
そして、ずっと胸に秘めてきた「問い」。
——自分は何者なのか。
光の回廊は、ただの道ではなかった。
それは歩く者の魂を映し出し、真実へ導くための儀式そのものだった。
やがて回廊の終わりに、ひとつの影が立っていた。
それはセツナと同じ姿をした“もうひとりのセツナ”。
光をまといながら、静かに言う。
「ここから先へ進むには、ひとつだけ選ばなければならない。
“過去を抱いて進むか”、それとも“過去を手放して進むか”。
どちらを選んでも、君は君だ。ただし、歩む未来は変わる。」
セツナは息を呑んだ。
光の回廊が揺れ、まるで彼の決断を待っているようだった。
長い沈黙のあと、セツナはゆっくりと手を伸ばした。
その選択が何をもたらすのか、まだ分からない。
だが、光の回廊を歩いた者として、もう迷うことはなかった。
そして、回廊の光がひときわ強く輝いた瞬間——
セツナの物語は、新たな章へと踏み出した。
12/22/2025, 10:13:59 AM