29. 時を結ぶリボン
結び目をそっとなぞった。
――ああ、おそろしい。
揺れる揺れる。
風に揺られる時計の針。
思い出せない。
あの子の声。
あの子の顔。
あの子の仕草。
火薬の匂いがする。
リボンをそっと引っ張った。
――ああ、愉快だ。
張る。晴る。
青い空と白い雲。
流れている。
あの日の空。
あの日の雲。
あの日の自分。
今にも地面が崩れ落ちそうだ。
結び目をそっと引っ張った。
――ああ、こんなにも容易い。
すらり、ほどけていく。
とけるとける、時よ止まれ、
止まらぬ現世に留めはすまい。
戻る。戻る。
逆行する。
――ああ、ああ、……。
それは、まるで、鎖とは、似ても似つかないような。
ただ、やさしく、繋ぎ留めてあった、とでも言おうか。
なんと、うつくしい。
時は止まりはしなかった。
12/20/2025, 2:32:01 PM