NoName

Open App

 歴史ある宿に泊まった。日本家屋の古い造りで、長い廊下に囲まれていた。木の階段を上がると、ミシミシ音がする。

 お手洗いも洗面も部屋の外だ。夜は、薄暗くて、お手洗いに行くのが少し怖かった。廊下を通った離れにある。手前に小さな灯りがついた中庭も見えた。こんもりと、植木があるはずなのだが、灯りの奥は暗くて見えない。

 早くすまそうと、灯りのスイッチを押す。扉を開けると、小さな手洗い場があった。奥に扉がもう一つある。灯りは、ほの暗くて、とにかく寒い。急いで出てきて、洗い場で手を洗う。

 水は、見るからに冷たそうで、おそるおそる手をつけた。ふと顔をあげると、鏡があった。
妙に青い顔をした自分の顔が映る。ひゃっと声が出そうになった。急いで手を拭いて、出口の扉を引く。またちらっと鏡が目に入った。鈍く光って、まるで凍てついているかのようだった。


「凍てつく鏡」

12/28/2025, 8:33:30 AM