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12/28/2025, 8:33:30 AM

 歴史ある宿に泊まった。日本家屋の古い造りで、長い廊下に囲まれていた。木の階段を上がると、ミシミシ音がする。

 お手洗いも洗面も部屋の外だ。夜は、薄暗くて、お手洗いに行くのが少し怖かった。廊下を通った離れにある。手前に小さな灯りがついた中庭も見えた。こんもりと、植木があるはずなのだが、灯りの奥は暗くて見えない。

 早くすまそうと、灯りのスイッチを押す。扉を開けると、小さな手洗い場があった。奥に扉がもう一つある。灯りは、ほの暗くて、とにかく寒い。急いで出てきて、洗い場で手を洗う。

 水は、見るからに冷たそうで、おそるおそる手をつけた。ふと顔をあげると、鏡があった。
妙に青い顔をした自分の顔が映る。ひゃっと声が出そうになった。急いで手を拭いて、出口の扉を引く。またちらっと鏡が目に入った。鈍く光って、まるで凍てついているかのようだった。


「凍てつく鏡」

12/27/2025, 8:35:37 AM

 珍しい雪の夜。つい先ほどまで、しんしんと降っていた雪は止んで、静けさに包まれている。道は、街頭の灯りが雪に反射して、いつもより明るく見える。人がたくさん踏み締めた後を、そろりそろりと歩く。

 細い路地に入る。あんまり人が通らない道は、より白い。街路樹も、こんもり雪を載せている。誰も歩いてないふかふかの雪に、てんてんと足跡が残る。時々、ふさっと雪が落ちてくる。電線からだろうか。肩に落ちた雪を払いながら、立ち止まる。

 銀色に輝く道。小さな足跡を見つけた。猫? お散歩の犬? しんと静まり返るなか、人も生き物もひたすら足跡をつけて歩く。

「雪明かりの夜」

12/26/2025, 8:53:48 AM

 藁にもすがる思いで、祈ることがある。特別な信仰がなくても、何か大きな存在がいて、聞いてくれるのではないかと思う。

 祈るというのは、自然に身についているものなのだろうか。そうすると、少し心が軽くなる気がするのだ。決して一人ではないのだという気分にもなる。

 うまくいくようになんて、誰にともなく祈っている。自分のことばかりと思うこともある。なかなか自分を平穏に保つのは難しい。他人のことを気遣える余裕のある人は、きっと自分を整えられているのだろうと思う。

 今日も気付けば、心の中で小さな祈りを捧げている。

「祈りを捧げて」

12/25/2025, 9:15:51 AM

 学生のころ、寒い日には温かいペットボトルのミルクティをよく飲んだ。仲間うちでも気に入ったものがあって、いつもそれを選んでいた。他のものより、紅茶の風味がよく、まろやかな味が良かった。誰かが、そのオレンジ色のキャップのボトルを手にしていたら、飲みたくなった。

 凍える手で、自販機からボトルを取ると、それだけで少し癒された。ほんの少し苦みがある甘いミルクティが喉を通っていく。お腹の中からふぅーっと温かくなった。

 君と散歩する時も、一緒によく飲んだ。その甘さが、寒さや緊張なんかもほぐしてくれた。

 自販機で見かけたので、久しぶりに買ってみた。こんなに甘かっただろうか。何口か飲むとあの頃のことが蘇ってきた。変わらないぬくもりだった。

「遠い日のぬくもり」

12/24/2025, 9:02:19 AM

 仕事を終えて外に出た。人が多い気がする。ケーキを売る人の熱を帯びた声が聞こえてきた。ああ、今日はクリスマスイブだった。

 足早に人々の間を潜り抜ける。どこもいっぱいだろうなあ。食事をするのに、いつもの喫茶店に行ってみた。店の扉を開けると、テーブルの一つ一つにキャンドルが灯っていた。

 あっ。思わず足がすくむ。「いらっしゃいませ」。いつもの窓際の席に座った。手元で注文を終えると、キャンドルがゆらゆら揺れるのを見ていた。本物の炎を見るのは、久しぶりのような気がする。不規則に、ちらちら揺れるのが何とも心地よかった。

 一人の客が多く、キャンドル以外はいつもの雰囲気だ。「お待たせしました」。サンタの姿をした人が笑顔で立っていた。よく見ると店主だ。普段は、ちょっとクールな感じだから、似合っているのかいないのかよく分からない。笑いが込み上げそうになった。

 料理の皿にも、さりげなくサンタのイラストが描かれたピックが刺してある。キャンドルの灯りに照らされるサンタの笑顔を見ながら、ふわっと心があたたかくなった。

「揺れるキャンドル」

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