光の回廊と名付けられたランウェイ的な細長い床が、マス目ごとにピコピコ色を変えながら光っている
周りには期待の眼差しを向ける観客たち
俺は今すぐ帰りたい気分だった
ここは頭のおかしい友人による実験の場
そして、俺と観客はこの実験の犠牲者なのだ
事情を知る俺は、バンジージャンプ寸前の人の気分だが、観客はのんきなものだ
これから面白いことが起きると信じているのだから
残念ながら面白いことなんて起こらないよ
友人の、期待の新星の芸人が披露するネタをタダで見られる、という甘言に乗せられ、この会場に来たことを心底後悔することになる
まったく
売り出し中だからどれだけウケるか知りたいので無料観覧できますよ、じゃないんだよ
来る客も客だ
こんなに怪しいのに、よく期待できるな
友人の実験、と言っていいのかどうかすら怪しい、意味不明な思いつきは以下の通りである
期待させておいてゴミみたいなネタをやった時、観客はどんな反応をとるのか
バカじゃないのか?
それを知ってどうする?
俺を巻き込む理由はなんだ?
自分でやればいいんじゃないか?
俺が色々あって頼みを断れない立場にあるからって調子に乗りやがって
ムカつくけど逆らえない以上やるしかない
俺は覚悟を決めて光の回廊へ出る
色の変わる光の回廊か
明らかに無駄な仕様と名前をつけた理由を知りたいが、まあ大した意味はないのだろう
せっかくなら、俺の考えうる渾身のつまらないネタの要素として使ってやろう
「わー、色が変わる床だー
紫の時だけ踏んでやろう
……あー、この床、紫には光らないのかぁ
なら、赤と青を同時に踏めば紫を踏んだことになるんじゃね?
おおすごい、そんなアイディアを出すなんて、俺あったま悪ぃー
どうも、ありがとうございましたー」
あっけにとられていた観客の視線が徐々に殺意に変わっていくのを感じる
皆さんの貴重な時間を奪ったことに対して本当に申し訳ない気持ちだけど悪いのは俺じゃないんだ
俺にこんなことをやらせた友人なんだ
背中にチクチクとした視線を感じながら俺が急いで裏へ戻ると、すでに友人の姿はなく
代わりにメモにこんなことが書いてあった
『思ったより普通でつまらない反応だったね
がっかりだよ
飽きたから先に帰る
あとはよろしく』
あのクソ野郎、人にこんなことやらせといて何ひとりで勝手に帰ってんだ!
というか、あの地獄を俺ひとりで処理しろと?
あんなに俺に殺意を向けられてんのに?
本当の地獄はこれから始まるのだ
そんな確信の中、俺は光の回廊へ戻っていく
光の回廊が俺の目には暗黒の回廊に見えた
12/22/2025, 11:48:20 AM