運命

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夜の9時ごろ部活を終えて帰路を辿っていた。空の端が微かに白い。吐く息が白い12月の下旬。自転車の「シャアシャア」と漕ぐ音が夜の闇に飲み込まれて行く。いつしか道を間違えたみたいだった。悴んだ手で手袋を取り、汗で濡れたズボンのポケットからスマホを取り出した。
「圏外」とスマホの表示。どうしたものか。色々試してみたがどうしよにも上手くいく気配がない。
 一瞬右腕が爆発したかと思った。意識よりも鋭い痛みが先に来た。突然のことでパニックになり自転車から転げ落ちた。
「パシュッ」。
背後から一本の矢が耳を掠めて手前の道路に突き刺さった。自転車で背中を守ってその場でうずくまった。右手を見るとひび割れたスマホごと矢が手のひらを貫かれていた。その間にも自転車に隠れている僕を殺す気で次々に矢が放たれていた。矢が当たって跳ね返る音。フレームに当たって火花の光を目の端が捉える。矢玉に晒される。正確でありながら雨のように止まる気がない。全身を痛みが喰らいつく。左手は手首から無くなっている。右手はもうちぎれかけている。
逃げないと。逃げないと。逃げないと。逃げないと。
全身の感覚がないまま足に「逃げろ」と信号を出す。右足を踏み出すと矢が容赦なく射抜く。目の前の塀にたくさんの矢が刺さっている。この矢の全てが、骨を断ち、肉を切った。「僕なんか悪いことしたかな?」
「ミャーオ」
目の前で白い猫が鳴いた。



轢いてごめんね

12/17/2025, 7:09:41 AM