ストック1

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「なんかさぁ、他人に冷たくされ続けた人生だったよ」

怪奇現象が起きるからと、依頼人の住む一軒家へ除霊しに来たけど、まさか幽霊の愚痴を聞かされることになるとは
霊になるほどだから、愚痴も長い長い
というか、ところどころ同じ話を繰り返してるなこの霊
二時間もよく愚痴れるものだと感心する
なんか、生前に誰からも優しくされなかったんだって
うん、可哀想だとは思ったよ
でもそろそろキツいんだよね
さすがに、赤の他人の愚痴を聞き続けるのは……ねぇ?
友達のなら乗れるけど

「ありがとな
俺の話を黙って聞いてくれたのはあんたが初めてだよ
他のやつは話の途中で俺を否定してきたから」

「スッキリできたならよかったです」

やっと終わった
まだまだ続くようなら、強制的に除霊するところだったよ

「あんた、優しい人だな
生きてるうちにあんたみたいな優しい人に出会いたかったよ」

う……
そんなふうに言われると、嫌々聞いてたから罪悪感が……
私、早く終われと思ってたんだけど
申し訳ないから、何かしてあげたいな
そうだ
この人、本当に生前いいことなかったのかな?
いい思い出を呼び覚ませば、気分よく逝けるかも

「他人に冷たくされ続けたって言ってましたけど、本当になにも無かったんですか?
誰かに優しくされた、ぬくもりの記憶みたいなものは」

「ぬくもりの記憶、かぁ
そんなのあったかな
……あぁひとつだけあった」

よかった
なにかあったみたいだ

「色々とうまくいかなくて、公園で頭抱えてたことがあってな
その時、見知らぬ小学生の女の子が俺に、元気が出るからって言ってお守りをくれたんだ
あの時は、笑顔で感謝して、女の子が帰ったあとで嬉しくて泣いたな
あれが人のぬくもりなんだなって思ったよ」

ん?
なんか昔、私も似たようなことやった気が
というかその話、私じゃないかな?
お守りってアレだよね
私がアニメを見て折り紙で手作りしたやつ

「そうか、あんただったのか
これも運命ってやつなのかな」

霊は穏やかな顔で笑う

「俺はあんたの優しさに二度も救われたんだなぁ
あんたの手で除霊されるなら、未練はないよ」

どうやら、もう思い残すことはないらしい
私は心を込めて、目の前の霊を除霊することにした

「最期に会えてよかったよ、ありがとな」

除霊の儀式の最後に、霊はそう言って、ものすごくいい笑顔でこの世から消滅したのだった
最後、満足そうに逝けたみたいでよかった
もし、今度生まれ変わることがあれば、幸せになってほしいと、そう願わずにはいられない霊だったな

12/10/2025, 12:00:58 PM