曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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子供の頃から誕生日ケーキの蝋燭が消せなかった。
肺活量の無さが原因か、毎年絶対に1本消すのに5回以上かかるのだ。
その姿はさぞかし滑稽に見えるんだろう、まったく恨めしい。


今年になってはじめて、自分で蝋燭に火をつけた。
このケーキも己の日々の労働からのプレゼントである。
駅前の小さなお店のチョコレートケーキ。
初挑戦だった。

一応、動画を回すことにした。
見返す予定はない、誰に送るでもない。
しかし、万が一を考えてしまった。奇跡を願ってしまった。

いち、に、さん、し、ご、ろく、でようやく灯は消えた。
蝋燭は2と3の二本のみなのに、なぜこんなにも時間がかかるのか。
暫くして、歌が無いことに気が付いた。
ひとりで歌うのも滑稽だと思って、開きかけた口を閉ざした。

ケーキは美味しかった。
でもなんとなく、来年は要らないなと思った。
なんとなく、本当になんとなく、誕生日は来なくていいと思った。
理由なんて無いけれどね、と言い訳をする。

目を背け続けて遂に歳を重ねてしまった。
夏生まれの君より、年上になってしまったよ。
僕は大人になってしまうよ。



「消えない灯り」

12/6/2025, 2:53:33 PM